【特集】「映画館離れ」は進むか

緊急事態宣言を受けて、飲食店は20時までの営業短縮を再度要請された。しかし、打撃を受けているのは飲食店だけではない。映画館からも、人が消えている。

昨年の春の緊急事態宣言下では休館に追い込まれ、今回の宣言下では休業こそしていないものの、上映スケジュールの組み直しや観客の間隔をあけるための席数制限など様々な対応を求められている。

コロナ禍において、娯楽やエンターテイメントは不要不急だとも言われた。感染拡大によって「映画館離れ」は進んでいるのだろうか。調べてみた。

◆映画館離れの現状

映画館での映画鑑賞について、2006年と2016年それぞれの年代別平均行動日数をまとめたグラフを見ると、実際に映画館での映画鑑賞は主に10代後半から50代前半までの年代で減少していることが分かる。

(出典:平成28年社会生活基本調査、総務省)

さらに昨年からはコロナ感染拡大の影響を受け、ますます減少傾向にある。しかし、「映画館離れ」をコロナのせいだけにはできない。NetflixやHuluなどに代表されるSVOD(Subscription Video on Demand)などの動画配信サービスの普及も、「映画館離れ」に拍車をかけているのだ。

Netflixが発表した2020年第4四半期(10月〜12月)決算によると、この期間に加入者数(有料会員数)は全世界で2億人を突破したという。またコロナで巣篭もり需要が増えた20年全体では、過去最高の3700万人が新しく加入。日本でも、サービス開始から5年を迎えた20年9月時点で有料会員数は500万人を突破した。また11月にはウォルト・ディズニーが独自の動画配信サービス「Disney +」を始め、今後は従来の劇場公開よりも動画配信を重視していくと発表した。会員数は開始1日で1000万人を突破したという。

たしかに私も以前は頻繁に映画館に足を運んでいたが、コロナの感染が拡大してからは一度も行っていない。昨年ステイホーム期間中にNetflixに会員登録してからは、家でも手軽に十分クオリティの高い映像コンテンツを楽しめるようになったからだ。

これまで映画の新作は、まず映画館で劇場公開された。その後、最低でも半年ほど空けてから動画配信サービスで見られるというのが慣行だった。しかしコロナの影響で、2020年8月から公開予定だったディズニー映画『ムーラン』は欧米での劇場公開中止を受けて「Disney +」での有料配信になった。また日本でも公開延期となっていた映画『劇場』は、ミニシアターでの上映とAmazon Prime Video配信に。日本では初の映画館と配信サービスでの同日公開となった。

このように、コロナ禍で従来の「映画館で見る映画」の概念は変わってきており、映画館と配信サービスでの同日公開が進めば、わざわざ映画館に行って映画を見る人はさらに減るだろう。今後は配信サービスで公開され、その作品の視聴者数に応じて映画館での公開規模を決定する、という逆の流れも生まれるのではないか。

◆映画館の今後は

これまで通り映画館で作品をスクリーンに流すだけでは、スマートフォンやパソコンで見る体験との差別化はできないだろう。もはや大画面ゆえの壮大さでは観客を取り込めなくなってきているし、コンテンツ力だけではNetflixなどの動画配信サービスに勝てない。Netflixはオリジナル作品に力を入れており、今配信されている日本制作のドラマ『今際の国のアリス』も人気作品の一つだ。

様々な動画配信サービスが普及している中で、映画館はもはや「映画を見る場所」としての役割だけでは今後の生き残りは厳しい。だとするならば、今後どのような役割を果たすべきなのだろうか。映画館好きとして、私は「映画館に行く」という体験そのものの価値を向上させる必要があると思う。

具体的には、「映画館でしかできない視聴体験」を増やすことだ。最近は最新技術を用いた新たな上映形式や複合的な環境整備、さらには機材がアップデートされたシネマコンプレックスが増えた。しかし今後はこうした高度な映像技術だけでなく、むしろ初期映画の上映形態への回帰も期待したい。

1920年代、アメリカで「サイレント映画」が一世を風靡した。映画自体は無声であるが、それゆえに演奏や音響がその場で付け加えられて初めて完成するライブ・パフォーマンスだった。つまり、演奏者がシーンにあう音楽を伴奏する即興的な演出で、同じ映画でも別の館で違う演奏者の演奏を聞けば全く違う体験になったという。

サイレント映画上映会の様子(1920年代、アメリカ)

これに対して、Netflixなどの動画配信サービスは、いつどこでどのデバイスで見ようと視聴体験は均一である。それこそが世界的に登録者数が増える理由でもあるが、だとするならば、映画館は同じ次元では闘えないだろう。

4DX映画やXRライドなどの最新技術と、こうした映画初期に戻るパフォーマンスは「映画館でしか体験できないコンテンツ」という点で共通していると思う。先端のテクノロジーだけでない、映画館ならではのエンターテインメント体験も提供することで、コロナ後の世界でも「映画館に行きたい」と思う人が増えるのではないだろうか。

◆最後に

映画が始まる前のあかりが次第に消えていく緊張感。静けさの中でポップコーンを食べるワクワク感。大画面の前で観客全員が同じ感動を共有し合う興奮。これらも全て、映画館ならではの体験だ。やはり、映画館には特別な雰囲気がある。

家のプライベート空間での鑑賞や「密」を避ける風潮から、映画館離れはある程度仕方ないのかもしれない。しかし映画館好きとして、どうにかしてその存在は守り続けたい。

 

参考記事:

22日付 朝日新聞デジタル 「中止でも時短でも上演でも苦しい 再び緊急事態、エンタメ界苦境」

参考資料:

平成28年社会生活基本調査(総務省)