「ぼっち」を顕在化させるクリスマスの恐怖

旧暦12月を表す師走の語源は、この月になるとお坊さん(師)が仏事で忙しくなり、毎日走り回っている様子に由来するそうだ。

お坊さんに限らず、年の瀬であることから、他の月に比べて比較的忙しくなる。オフィス街を歩いていても、サラリーマンやOLはいつにも増して早歩きである。

 一方、悠々自適な生活を送る筆者ら学生にとっても師走は、意外にも極めて忙しい月なのである。

なぜ、学園祭も終わり、試験もなく、冬期休暇に半分足を突っ込んでいる師走が忙しい季節なのか。それは一重に、クリスマスという学生にとって重大なイベントがあるからである。

 クリスマスといえば、山下達郎の名曲「クリスマス・イブ」。

“きっと君は来ない ひとりきりのクリスマス・イブ

Silent night, Holy night”

 想いを寄せていた「君」はきっと来ないのに、カップルが跳梁跋扈するクリスマスの雑踏の中、忠犬ハチ公の如く待つ「自分」。嗚呼なんとも切ない曲であろうか。

 しかし、筆者ら若者にとって「君」が来ないクリスマスにこのような哀愁漂う歌詞を口ずさむほどの余裕は到底ない。なぜなら、「インスタグラム」によって、若者は、クリスマスの間、常に、イチャイチャしたカップルが蠢(うごめ)く空間の延長線に自らが存在していることを意識しなければならなくなったからである。

 20代の利用率が6割を超えるSNS「インスタグラム」、通称「インスタ」には「ストーリーズ(Stories)」という機能がある。「ストーリーズ」とは、撮影した写真や動画を投稿できる機能であり、投稿内容が24時間で自動消去される気楽さからユーザーの利用率は高い。この機能は投稿の手軽さ故に、撮影から投稿までに時差が生じにくく、リアルタイムでの投稿が多くなる。

 それ故に、ユーザーは「ストーリーズ」を見さえすれば、現在、フォローしている人が誰と何をしているかが大体わかるのである。

一方で、何か盛大なイベントの際には、それに関する「ストーリーズ」が大量に投稿され、自分がその場にいなくとも、その場にいるかのような臨在感を見る者に与える。

 ”街角には クリスマス・トゥリー 銀色のきらめき

Silent night, Holy night”

 「クリスマス・イブ」のこの一節では、街角の「クリスマス・トゥリー」によって、今晩が 「Holy night」であることを意識づけられるが、インスタ利用者は街角に立たずとも、「ストーリーズ」さえ見れば、本日が「聖なる日」であることをいやでも意識しないわけにいかなくなるのである。

「きっと君は来ない ひとりきりのクリスマス・イブ」と山下達郎が歌っていた時代は、家に戻りさえすれば、クリスマスの輝きから逃れることができた。しかし、現在のインスタを利用している「クリぼっち」大学生にとって、家にこもっていても逃れることはできない。それ故に、クリスマス中は常にバツの悪さ、居心地の悪さを感じながら「クリぼっち」で過ごさなければならないのである。

 そうならない為にも、師走には「クリぼっち」予備軍大学生は、異性との接触をはかったり、クリスマスパーティーを開催する為に大して仲が良くもない男女で遊びに行ったりする為に大変忙しくなる。

 クリスマスまで残りわずかとなった今、筆者ら大学生は、「ストーリーズに映るキラキラした側」となるか、「ストーリーズを見てジェラシーを抱く側」になるのか大きな分岐点に立たされている。

 

参考記事:

18日付 日本経済新聞朝刊11版24面「イチゴ、天候不順で出荷減 クリスマスに品薄も」