民主主義 望む香港と苦しむ先進国

香港が揺れています。容疑者を中国本土へ移送できるようにするためのいわゆる逃亡犯条例を巡り、事実上の表現の自由の規制と考える若者が香港政府へ抗議の意思を示し大規模なデモを繰り広げています。

ここへきて、香港政府は条例の改正案を正式に撤回することを表明しました。香港の林鄭月娥行政長官は以前から改正案を「事実上死んでいる」と表現しており、整式撤回の直前にも「私に選択肢があるなら辞任したい」という林鄭長官の音声が流出するなど、改正案とそれを巡る政治は混とんとしていました。

改正案の正式撤回を受けてもなお、抗議活動が沈静化するとの見方は多くありません。若者の間で「民主化運動の女神」と呼ばれる周庭氏は4日、ツイッターで「条例の撤回は喜べません。遅すぎました」と香港政府を批判し、これからもデモを続けることを流ちょうな日本語で表明しています。

(周庭氏のツイッター。16万人を超えるフォロワーを抱え、中国語・日本語・英語を操り世界に向けて香港政府を批判している。)

 

若者の要求の中には普通選挙の実現も含まれています。現在、香港が置かれている「一国二制度」以上に、先進国並みの民主主義を導入しようというものですが、中国本土では共産党が一党支配を確立させている現状、中国政府にとって大きな挑戦ですし絶対にのめない要求であることは明白です。

隣国の混乱を少し俯瞰して落ち着いて考察すると、民主主義はそこまで魅力的で万能なのかという疑問が残ります。我が国と同様に議院内閣制を採用しているイギリスでは、国民の代表が政治を行う間接民主制があるにも関わらずキャメロン政権(当時)が欧州連合からのイギリスの脱退をあえて国民に直接問う投票を行ったところ、現在に至るまでの大きな混乱だけが残りました。自由の国・アメリカでも、国民が事実上直接大統領を選んだところ異色の経歴を持つトランプ氏が当選しアメリカ国内に政治的な対立を生みました。

こうした混乱は一時期の日本でも見られました。第一次安倍政権で参院選に敗北し「ねじれ国会」に突入。与野党対立から国会審議が度々紛糾し、その後の民主党政権も含め安倍・福田・麻生・菅・野田の4つの政権がねじれ国会下で退陣を余儀なくされました。一時は「衆院のカーボンコピー論」が指摘され不要という声も見られた参議院の強い性格が色濃く反映されました。

明治維新後、欧米列強に追いつくために憲法とともに日本に導入された議会。当初は有権者が全国民の1%程度しかいなかったものの、大正デモクラシーにおいて男性に普通選挙が認められ、第二次世界大戦の敗北により女性も含めた普通選挙が整備されてきましたが、その歴史において民衆と政府の対立が度々発生し、参政権は国民が不自由なく勝ち取ったものではありません。

もちろん、政治に国民の声を反映することができない北朝鮮や中国のような政治制度の方が優れているとは少しも思いませんし、民主主義に疑義を唱えるつもりはありません。しかし、人々が熱望していた民主主義は、決して万能ではなく、その使い方を誤れば国民自らを苦しめることにもなりかねないのだと、日本・イギリス・アメリカ、そして香港を眺めて思うのです。

参考記事:

6日付 日本経済新聞朝刊2面(総合1)「中国「最後の譲歩」強調」