おらほのホヤ 食べてけさい

福島など8県産の水産物の禁輸を続ける韓国。日本は世界貿易機関(WTO)を通じて是正を求めたが、紛争を処理するWTOの上級委員会は報告書で韓国側の禁輸措置を容認した。4月11日のことである。

あれからおよそ2カ月。東北の海は今、ホヤの旬を迎えている。「海のパイナップル」と呼ばれ、酢の物や刺身で食べると絶品だ。筆者の故郷、宮城県は生産量で全国1位である。東日本大震災の前には宮城だけで1万トン以上の生産量を誇り、うち7割から8割が韓国に向けて輸出されていた。しかし原発事故によってその市場が姿を消し、ホヤ養殖を営む漁業関係者に深刻な影響を与えている。

残念ながら、韓国における日本産水産物への目線は厳しい。今月2日、韓国SBSテレビで放送されたバラエティ番組「執事部」の内容にネット上から批判が相次いだ。原因は、出演俳優のイ・ソジン氏が番組内で青森県を訪れ、地元の刺身を食べたこと。青森県は、韓国が禁輸措置を取る8県のうちの一つだった。一日県知事を務めたこともあるイ氏が「(青森は)深い縁を抱く清浄な地域」とコメントしたことも批判に拍車をかけたらしい。「番組への批判は過剰反応だ」との意見も出たが「(WTOの紛争処理手続きで)政府が苦労して勝訴した中で、問題の地域をわざわざ広報するのはどういう意図なのか」「不適切だ」と厳しい声も上がる。

▲批判が相次いだSBSテレビのバラエティ番組「執事部」の番組ホームページ(SBSテレビのサイトで筆者がスクリーンショット)

筆者自身も韓国に留学中、友人と議論になったことがある。ソウル近郊の水産市場を訪れた際に「どうして日本の水産物は取り扱わないのか」と素朴な疑問を口にした。すると友人は「数ある選択肢の中で、わざわざ日本の水産物を選ぶ必要があるのか」と切り返してきた。それは原発事故を念頭に置いたもので、何も言い返せなかった。

▲ソウル市内にある水産市場。日本の水産物は取り扱っていなかった。2018年9月2日、ソウル市内で筆者撮影。

▲ソウル市内の市場でも、日本産食品はあまり見かけない。1月6日、ソウル市内で筆者撮影

ホヤ最盛期を迎えた中、宮城県では禁輸措置にどのような思いを抱いているのか。筆者は水産関係者に電話取材をした。

県水産振興課の担当者は「漁協などと協力して、まずは国内の需要喚起に取り組んでいる」という。先月3日には仙台市中心部で「ほや祭り2019」を開催し、ホヤの魅力発信や唐揚げなどの一風変わったレシピを紹介した。WTOの禁輸措置容認を巡っては「現時点で具体的な対応はしていない」としつつも、「判決を踏まえ、販路開拓に向けた取り組みをしたいとは思っている」と意欲を示した。

▲韓国の魚市場に併設された食堂ではホヤの刺身が出された。原発事故前は日本からの輸入に頼っていたが、今は日本産のものを使っていない。2018年12月25日、韓国・仁川市内で筆者撮影

県漁業協同組合の担当者は「水産庁がホヤ漁師にほかの魚の漁への転換を支援するというが、現段階ではホヤ養殖を続けたいのか第一」と現場の声を強調した。漁師たちは、WTOで日本が勝訴することを信じていたという。「その前提で活動をしていた中での敗訴だった。もう一度韓国政府と交渉してほしい」。漁協担当者は、禁輸措置の解決を強く願っていた。

現場の努力もあり、今年は震災後初めてホヤの廃棄がゼロになる。需要を見越して成長前から養殖量を調整したことが結果につながった。それでも、やるせなさは募る。いくら検査をしても各国の禁輸措置は完全には撤廃されていない。一体何をクリアすれば信頼を取り戻せるのだろう。

▲世界三大漁場とも言われる三陸の海。2017年3月11日、宮城県南三陸町で筆者撮影

風評被害の根深さにはため息が尽きない。
せめて現場の努力に目を向けてほしい。故郷の風評被害を肌で感じた者として、切に願う。

参考記事:
10日付朝鮮日報(電子版)「’日 아오모리 청정 지역’ 논란…SBS 집사부일체 측 사과」
9日付日本経済新聞朝刊(東京14版)1面「春秋」
7日付河北新報朝刊(16版)1面「韓国の番組が炎上」
5月20日付朝日新聞(電子版)「韓国以外への輸出を応援 WTO敗訴で水産庁が支援策」

参考文献:
水産庁「WTO上級委員会報告書の結果を踏まえた対応方向について」
http://www.jfa.maff.go.jp/j/press/kakou/190517.html