店で挽いてもらったばかりの粉を3杯ドリッパーに入れ、熱々のお湯を注ぐ。すると、ふわっと香ばしい香りが立ち込めます。雑味がなく、あっさりとした味でした。先日、取材先でブラジル産のコーヒー豆「ブラジルショコラ」を購入し、焙煎したてを家でドリップした時のことです。「飲む直前に挽くべし」。読売新聞の夕刊にもコーヒーの豆は直前に挽くと、これまで飲んできたものとは別物だとの作家の高橋弘希さんの弁が載っていました。
5月23日に「コーヒー足りなくなる!?」を書きましたが、豆の生産が減る理由をもっと詳しく、分かり易くと読者から厳しい注文が。ならばと追加取材をしてみました。
相場下落で安値が長引き、生産が減ると報じられています。その背景を深く学ぼうと、前回の執筆でもお世話になったコーヒー専門店「コーヒーロースト」(東京都武蔵野市)を再訪しました。
「今後については何とも言えないが、生産が減る可能性は十分にある」と店主の丸高実さん(52)は言います。2度の取材を通して、生産減の理由は三つあるとわかりました。
第一に、農地のケアにコストがかかり、転作を余儀なくされてしまうからです。「コーヒーからオレンジ農家にする人もいる」。手摘みに頼る小規模農家では、安値が続くと、施肥や農薬散布でのケアが難しくなり、コーヒー栽培をやめてしまう傾向があるそうです。
二つ目は、労働環境の悪さです。丸高さんが聞いた話によると、コロンビアでは、収穫期の一番人手の必要な時だけ雇い、収穫した豆70キロを駐車場まで背負って運ばせていたこともある。コカを食べてその辛さをごまかしていたそうです。これは10年ほど前の話ですが、今も労働環境は決して良いとは言えません。インドネシアに駐在し、コーヒーの輸出入に携わった経験のある筆者の祖父も、安い賃金で重労働を課されているのは間違いないと断言していました。
最後に異常気象があります。2050年には生産地が半減すると言われるほどで、安値続きで農地のケアも十分にできない状態では、気候変動に備えた設備投資や品種改良まで手を伸ばせないのが現状です。「異常気象の影響が顕著に表れる」と丸高さんも言っていました。
安値が続くことは、飲む側にとっては嬉しいことですが、労働に見合った価格設定でないと、長い目で見て生産を維持できないと分かりました。私ができることとして、フェアトレード商品を購入するのも一つの方法だと思います。
なぜこれらの事情に気がつかなかったのか。コーヒー愛好家としては大いに反省しなければなりません。無理解だった最大の理由は、産地が遠いからだと考えます。お米や野菜などは身近で、生産者の顔が見えることもあります。その人たちがどのような生活を送っているかは容易に想像できます。しかし、コーヒーの産地は主にブラジル、エチオピア、タンザニアなど日本にとって地球の裏側です。毎朝飲む一杯にどれほどの労力が使われているのかを考えたことがありませんでした。
新聞記事を読み込み、2度の取材を通して、産地についても考えるようになりました。これからも飲むたびに、栽培している人のことを思います。
参考記事
28日付 読売新聞(東京3版) 2面「作家と珈琲の流儀 飲む直前に挽くべし」
23日付 日本経済新聞朝刊(東京11版)20面(マーケット商品)「コーヒー、需給逆転の足音 長引く安値で生産減懸念」