新幹線の旅を豊かにする「あの雑誌」

きっぷ片手に、自分が乗る車両を探してホームを早歩きで移動する。到着した列車に乗り込み、座席を倒して一息つくと、どこからか缶ビールを空ける「プシュッ」という音が聞こえてくる。私が新幹線に乗って最初にするのは、車内誌を読むことだ。

JR東日本の「トランヴェール」しか読んだことがないが、東海道・山陽新幹線にはグリーン席にのみ「Wedge」と「ひととき」が、JR九州では「Please」が置いてあるようだ。また、北陸新幹線には「西Navi北陸」がある。月刊で、毎月特集エリアを決め、その地の文化や風土の紹介を中心に紙面づくりをしている雑誌がほとんどだ。あまり知られていないが、フリーペーパーなので持ち帰ってもいい。少なくともトランヴェールは、ときどき掲載記事を書いている知人のライターいわく「持ち帰り数はカウントされているので、そうしてもらえるとありがたい」とのことだ。

同誌には攻めた企画も多く、タダで読んでいいのだろうかと思うほどの満足度だ。昨年読んだ中では5月号の「建築とデザインでたどるTOKYO1964」と、8月号の「宮城は、漫画・アニメの舞台装置だ!」が面白かった。ちなみに今月号は「最終列車で行こう!」。秋田に帰省するときに東北の特集を読むと、寄り道したくなる。

沢木耕太郎のファンなので、彼の巻頭エッセイ「旅のつばくろ」が一番の楽しみだ。思えば、彼の文章を初めて読んだのは「深夜特急」でもなく「テロルの決算」でもなく、このエッセイだった。ホームページで特集のバックナンバーを公開しているので、ぜひ読んでみてほしい。

無料の車内誌は心配ないが、北海道、九州、秋田新幹線と、東北新幹線の「やまびこ」は、3月15日を最後に車内販売を終了することになった。売り上げが減っていることが主な原因とされている。ネットでは名物商品の「硬すぎるカップアイス」が食べられなくなる、と話題になっている。もう食べられませんよ、と言われると食べてみたくなるのが人間の性だ。新聞によれば、販売を続けるほかの新幹線やさいたま市にある鉄道博物館で入手できる。

朝日新聞には、「駅ナカ店舗やコンビニの方が種類が豊富で、値段が安いことも多い。長距離客はみな食べ物や飲み物を持ち込んでくる」というJR関係者の声が載っていた。また、放送大学の原武史教授の次のような指摘も取り上げられている。

車窓を眺めながら駅弁を味わうなど、プロセスを楽しむ鉄道旅行の魅力が失われてきている。乗客も車内では居眠りするかスマホをいじるかで、鉄道旅行を楽しもうとはしていない。

あるいは読書か、連れ合いとおしゃべりするくらいだろうか。車内では自由に過ごしていいと思うが、手持ちぶさたなときは車内誌も楽しみの一つに加えていただけるとうれしい。

参考記事:21日付 朝日新聞朝刊(東京13版)社会(33面)「(ニュースQ3)消えゆく車内販売 旅を彩る味どうなる?」