「被災者が住む仮設住宅を撮影する人がいる。でも、撮らないでください。見世物ではないので」
2年前、被災地を訪れた時、語り部の女性が発した言葉が忘れられません。宮城県気仙沼市、津波に襲われた街でのことでした。
震災発生時の体験について言葉を詰まらせながら話してくれた彼女は、津波で兄弟を亡くしていました。自らの家は津波の被害を免れたものの、多くの知り合いが仮設住宅に住んでいると言います。震災後、気仙沼に来る人の中に、そうした住宅を撮影する人がいて、皆嫌がっている、プライベートな暮らしが脅かされている、だから止めて欲しいと話していました。
被災地の今がどうなっているのか知りたい、復興を支援したいと現場に行く人は多いと思います。ですが、被災地は観光地ではありません。心に傷を負った人もいる中、突然押しかけて勝手に写真を撮るというのは違うと思うのです。
今日の朝日新聞朝刊に、震災の時、自分と同じ境遇にいる被災者に情報を届けようと一人で、新聞の取材から発行まで行った女性が紹介されていました。被災地域が広すぎて、それぞれにとって必要な情報で手に入るのはごく僅かだったため始めたそうです。情報は私たちにとってなくてはならないもの。正確に伝えることはいかなる非常事態でも必須だと思いました。
情報の伝え手である新聞社などは、撮影や掲載の時には許可をとっているはずです。個人の手元に留めておくだけであったとしても、見ず知らずの人が自分の家を撮影しに来たらどう思うか、私たち一人一人が考えるべきです。
昨年は、災害の多い年で、全国の至る所が「被災地」となりました。これからどこかの被災地にうかがう時は、語り部の女性の思いを忘れず、住んでいる方々の気持ちを考えて行動することを心掛けます。
現地の方から直接、お話しを聞くことができたとしたら、それは何かのご縁があってこそ。だからこそ、土足で踏み込むような振る舞いは許されません。
参考記事:朝日新聞朝刊 (13版) 3面 「てんでんこ」 「震災報道一色だが、被災地に必要な情報はない。自分で伝えるしかない」