水族館で少し立ち止まって考えたいこと

色鮮やかな魚とサンゴ礁、ふわふわと漂う美しいクラゲ、迫力満点のイルカショー…。皆さんは、水族館にどんなイメージを抱いていますか。

幼い頃、大阪にある海遊館にジンベイザメを見に行くのが楽しみでした。珍しい魚や生き物を見つけては、生物の不思議に触れ、まだ見ぬ未知の世界に思いはせていました。今は、非日常を体験できることが魅力だと感じます。暗い照明の中で、幻想的な海の雰囲気を楽しむのが好きです。大学生にとっては、デートの代名詞、とも言えるかもしれません。

今日の紙面には、『水族館の文化史』(勉誠出版)と『大人のための水族館ガイド』(養賢堂)の著者である溝井裕一氏(関西大教授)が紹介されていました。

実際に『水族館の文化史』を手に取ってみました。「支配」をはじめとした人間と水中生物の関わりや、近代水族館の歴史などを紐解いて説明しています。水族館(アクアリウム)には、二つの条件があることを初めて知りました。一つ目は、透明なガラスを通して様々な角度から観察できること。もう一つは、「自己完結した水族の安定したコミュニティ」をディスプレイにすることです。つまり、生き物たちが互いに補完しながら生きていける「小宇宙」を再現する必要があると学びました。水族館にとって、「多様性」は大きなキーワードといえそうです。

本を読んで印象的だったのは、ディズニー化する水族館とハイパーリアリティの話題でした。私たちが水族館で見ているのは、「自然の一場面の編集」であり、そこには「病気」や「死」といった現実に引き戻される要素が取り除かれているという鋭い指摘です。「ありそうでないような『魔術的世界』を構築している」と溝井氏は語ります。

最後に著者は、VRやロボットといった最先端技術が、水族館に新しい風を吹かせていることを紹介しながら、本物の生き物を展示することの意義を投げかけます。私は、生き物の成長やありのままの姿を通じて、一つ一つの命の尊さや重みを知ることだと考えました。華やかさの裏にある、動物の福祉や共生という観点にもしっかり目を向けていきたいです。

読売新聞 14日付 12版 23面「水族館とは?正面から問う」