今宵はクリスマスイブ。この時期になると思い出すのがJR東海のCM「クリスマス・エクスプレス」。放映されたのはバブル期ですが、キャッチフレーズ「帰ってくるのが最高のプレゼント」が今でも胸に響きます。全国のホームや改札口で、待ち遠しかった再会が果たされていることでしょう。鉄道をはじめ、いつの時代でも人と交通は密な関わりを持っています。
今世界では、交通利用が大きな変革の時を迎えようとしています。その先駆けとなっているのは欧州です。MaaS Global(マースグローバル)社は2016年、「MaaS(マース)」と呼ばれる次世代新交通サービスの提供をフィンランドで開始しました。世界で初めての試みです。マースとは Mobility as a Serviceの略称で、様々な種類の交通サービスを需要に応じて一つの移動サービスに統合したり、交通利用者数などのビッグデータから、よりよい交通手段を提案したりするものです。
サービスの中心は、スマホアプリ「Whim(ウィム)」。同社は交通事業者と提携し、鉄道、バス、タクシー、カーシェアまで、様々な交通機関の情報をウィムに集約。利用者は目的地と時間を入力するだけで、経路の検索はもちろん、別々の交通機関でも一括で予約し、決済することができるようになりました。
マースがもたらすのは、アプリによる利便性だけではありません。人工知能AIを駆使して効率的な人の流れを探知し、利用者を公共交通機関に誘導することで渋滞解消につなげることもできます。実際、フィンランドでは自家用車の利用を最大で半減させる効果も出始めているそうです。さらにウィムのサービスはイギリスやベルギーでも始まっています。11月には、アジア初となるシンガポールへの進出を明らかにしました。マースを利用したサービスが、2030年代には世界で100兆円前後の市場になるとの予測も。マースの勢いはますます増していくことでしょう。
日本も例外ではありません。トヨタ自動車はマースを利用したスマホアプリ「マイルート」を開発。目的地までのルートにどの組み合わせが安くて早いかを一覧表示します。一部では公共交通機関の予約、決済も可能です。首都圏の鉄道各社も力を入れはじめました。東急電鉄や小田急電鉄ではマースを取り入れたアプリの開発や実証実験に着手しました。そして国土交通省は、新年度に国内の複数箇所で実証実験を行うための予算確保にめどをつけました。官民ともにマースへの期待と注目が集まっているようです。
一方で、日本における普及は険しい道のりになりそうです。私鉄など民間企業が交通インフラを発達させた日本では、交通データが各社に分散しています。一元化するのは容易ではなく、普及を妨げる可能性があります。また、カギの一つであるライドシェアが日本では道路運送法があるため禁止されています。
利便性を享受するためには規制緩和が必要になりそうです。その過程で業界からの反発が出る恐れもあります。マースを念頭にした街づくりも期待できそうですが、まだまだ先の話になりそうです。
交通は私たちの生活から切り離すことはできません。サービスの導入は国や企業主導になるとはいえ、普及の過程で国民が置き去りにされないこと祈ります。
参考記事:
24日付日本経済新聞朝刊(東京12版)5面「交通サービス スマホで一括」
参考文献
国土交通省「MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)について」