たかが自転車だからと油断しないで

シェアサイクルの取り組み(5日あらたにす「自転車コギコギしたいですか?」参照)が推進される一方、街では危険な自転車の運転を目にします。信号無視、ながらスマホ、傘差し運転、並進走行、イヤホン・ヘッドホンを装着しながらの運転・・・。道路交通法に基づいて都道府県が定めている交通規則の禁止行為です。違反すると5万円以下の罰金が科せられ、最も重い重過失致死傷罪での最高刑は懲役5年にもなります。それでも事故は絶えず、歩行者を死傷させる事故は昨年45件に上りました。

目の前で自転車に轢かれた弟の姿が今でも脳裏に焼き付いています。10年ほど前、小学3年生だった弟と青信号の横断歩道を渡ろうとしていた時のことです。車道を走る自転車が近づいてきたことに気がつきました。運転手はサラリーマン風の男性で、通話をしながらよそ見運転をしていました。前方の赤信号と小さな歩行者を気に留める様子はなく、横断歩道に差しかかっても止まる気配がありません。このままでは衝突してしまいます。「危ない!」数歩先を歩いていた弟を慌てて呼び止めました。振り返った彼に自転車が突っ込んだ一瞬は、スローモーションをかけた映像のように、ゆっくりと私の目に映りました。

自転車と共に倒れた弟は、声をかけてもしばらく動きませんでした。抱え起こし、重症でないことを確認して、駆けつけた両親が病院へ連れて行きました。結果的には擦り傷と打撲、口内出血、永久歯の損傷で済みましたが、それから数週間は脳への影響や後遺症の不安に苛まれました。

加害者の男性は、逃げることなく謝罪を繰り返しました。今思えば警察に連絡すべきだったのかもしれませんが、示談で済ませました。その理由について、母は次のように話しています。「命に関わるような怪我ではなかったから。でも、同じ怪我でも事故を起こしたのが自動車なら被害届を出していたと思う。当時、自転車の事故に対する認識はその程度だった。」

現在、自転車の「ながらスマホ」が禁止されている国は、欧州ではドイツとベルギーしかありません。米国では、シカゴとフィラデルフィアなど市単位にとどまっています。今年9月、「自転車王国」のオランダでも法案が提出され、来年から施行されます。国を動かしたのは、自転車事故で息子を亡くした父親の訴えでした。13歳だった少年は、スマホで音楽を選曲しながら走行し、交差点で出会い頭に車と衝突して命を落としました。

自転車の利用が増えている日本でも、事故の危険性は一段と高まっています。免許を必要とせず子供からお年寄りまで誰もが使えるのが利点である一方、その気軽さが危険さへの意識を鈍らせてもいます。自動車に比べると罰則が軽いのが現状ですが、今後は厳罰化も避けられません。それによる一人一人の意識向上に期待したいものです。

 

参考:

20日付 読売新聞朝刊(東京13版)8面(国際)「禁止の日本 事故絶えず」

警視庁HP 「自転車の正しい乗り方