ネットは悲しい境遇の集積地

金融庁は5日、スルガ銀行に対して一部の業務について停止命令を出しました。投資用不動産向け融資での不正やファミリー企業への不適切融資、暴力団との取引が確認され、結果として厳しい処分が下される結果となりました。中でも驚きなのは、組織内にはびこっていたパワハラです。

―「数字が出来ないならビルから飛び降りろ」

―「(死んでも頑張ると述べた社員に)それなら死んでみろ」

これらはいずれも外部の専門家による第三者委員会が9月にまとめた報告書が明らかにした社員による暴言の一部です。他にも「1か月間無視される」「首を掴まれて壁に押し当てられる」また休日出勤の強要など耳を疑う行為が横行していました。

これに対して、ネット上ではスルガ銀行の姿勢への驚きや怒りの声が多くあがりました。昨今、働き方改革が叫ばれ職場の環境をより良くしようとする流れが主流となっています。昔は多少の行き過ぎた行動が許されたとしても現在ではタブーです。

ネット上では自らの職場環境の劣悪さをつぶやく光景が見受けられます。「最近休んでいない」「(うちの職場は)土日出勤は当たり前」「みんなお盆休みいいな」など数多くの事例が「報告」されています。

ツイッターなどでつぶやいている本人にしたら、文章に起こすことでストレスを発散しているのかもしれないですし、自分の現状を周囲に分かってもらいたいという思いがあるのかもしれません。しかし、その投稿が瞬く間に拡散され、時には何千、何万リツイートまで至っているのを見ると、自分の窮状を訴えるというよりは単に過激な内容を書いてネット上で有名人になりたいと思っているだけなのではないかと思ってしまいます。

もちろん、中には自分の置かれているつらい現状を分かってほしいと率直に思う人もいるでしょうから全ての投稿を同一視してはなりません。しかし、その投稿が「忙しさのアピール」と映ってしまっては意味がありませんし、その投稿に上司や会社の誹謗中傷が入っていては説得力が失せます。

もっと言えば本当に劣悪な環境であるならば、労働基準監督署や弁護士へ相談したり社内の紛争解決制度を利用したりするなど自らが行動する必要があります。ネットに書き込んだところで、見ている側には為す術がないのですから。

ネット空間は「劣悪な環境で涙こらえながら働いている自分、カッコいい」などと陶酔する舞台になったり、ネットが職場環境の劣悪さを訴え、同じ境遇にいる人同士で傷をなめあう悲しい場所でもないはずです。そのためにも、ブラック企業と言われる会社がなくなることを願います。

参考記事:

6日付 読売新聞朝刊14版6面(経済)「パワハラ横行 重圧に」