フェイクニュース問題は思っているより深刻です。以前の「分極・分断の果ては見たくない」(5月10日)ではインターネット上での言論の分極化の改善を助ける手法として「ファクトチェック」を紹介しました。
10日付読売新聞朝刊は、中間選挙を控えたアメリカに対し、ロシアがフェイクニュースを流すことで、世論工作をしている疑いがあると報じています。2016年の大統領選挙から問題とされてきたことですが、2年以上経過した今でも解消できていません。その手口はスパイ映画さながら。事実無根の情報をさも本当であるように見せかけ、毎日20本ものニュースとして配信する企業もあり、そこで働いていた青年の話も掲載されています。「官製」の虚偽報道が国内外を問わず拡散されている…。本当に現代の話なのか、耳を疑いたくもなります。
発信されたものが事実であるかを検証するこの方法への取り組みは、昨年から日本でも始まっています。
今月9日には、東京都渋谷区で「世界のフェイクニュース対策最前線と日本の行方」をテーマにした報告会が開催され、筆者も参加しました。主催したのは、日本でファクトチェックの推進・普及に取り組むNPO団体「ファクトチェック・イニシアティブ」(通称FIJ)で、6月にローマで開かれた国際会議「Global Fact」に参加したメンバーがフェイクニュース問題やその対策の最前線について報告し、議論しました。Global Factは今年で5回目を迎え、世界56カ国で活動するファクトチェック団体関係者が集まり、国際的な方向性について議論したとのこと。日本からはFIJのみが2年連続で参加したということでした。
日本では昨年秋の衆院選でファクトチェックへの機運が高まり、複数のプロジェクトが立ち上げられました。しかし、Global Factに参加した登壇者からは「日本は他の国と比較して厳しい状況にある」と焦りの声が聞かれました。「国際団体の関係者は、はっきり言って日本に失望している」「日本でのファクトチェックは国際的な基準に到達できていない」。たしかに厳しい状況にあることが伝わってきます。衆院選での活動は一定の効果を得たものの、「日本では明らかな嘘が広まらないできた」というここ数年の傾向があるとして、次の一歩が難しくなっているようでした。
先月16日に米国で放送された番組では「年収945万円で忍者募集」とする三重県伊賀市に関する誤った情報が流布し、新聞で取り上げられるなど話題になりました。報告会の登壇者は、これまで日本で大きな問題とならなかった理由として「言語の壁があった」からとしています。海外では言語が共通の国が多く、参入障壁が低いようです。とはいえ、現に海外メディアが日本に関与できることが忍者の件で分かりました。また、ロシアのフェイクニュース政策の件を見る限り、日本でも大きな事件がいずれ起こりうる危険性が証明されたようにも感じます。
ファクトチェックを総括する国際団体「IFCN」の基準集にはAP通信社をはじめ、いわゆる既存メディアと呼ばれる媒体も順守を約束する署名をしています。ファクトチェックはジャーナリズムとは若干違う分野ではありますが、日本でもメディア業界全体で、自らの変革に踏み切ることが求められているのではないでしょうか。
参考記事:
10日付 読売新聞朝刊(東京13S版)7面(国際)「露の選挙干渉 米が警戒」
7月24日付 朝日新聞デジタル版「「年収945万円で忍者募集」伊賀市、偽ニュースを否定」