心地よい潮風とともに届く蝉時雨の響きを聞きながら、沖縄の澄みわたった海を前にしています。そして、この島に眠る深い悲しみに思いを馳せています。今日は、沖縄の人々にとって忘れられない「慰霊の日」です。沖縄戦没者追悼式に参列し、失われた多くの尊い命に黙祷を捧げました。
摩文仁の丘から見た海
式に向かうバスの車中、隣に座った女性がご自身の経験を語ってくれました。南洋諸島に浮かぶテニアン島からの帰還者だという彼女は、御歳82歳。米軍の来襲から家族と逃げ回ったこと。異臭と蒸し暑さでいっぱいの壕の中。我慢出来ずに出ようとした矢先、受けた銃撃。幸いなことに誰も怪我をしなかったそうですが、徴兵されていたお兄さんは帰らぬ人となりました。
「健康と、よく考えて生きることが大切。あなたも頑張ってね」
彼女の言葉に重みを感じました。
参列者の年齢層は高く、時折涙している人を見かけました。翁長知事が米軍の基地問題に言及するたび会場が拍手に包まれる一方、安倍総理大臣の演説には何度もヤジが飛びました。
戦後、アメリカの占領下に置かれた沖縄は、1972年に本土復帰を果たしました。それまでに増えていった米軍基地の問題は、今も尾を引いています。戦は終わりました。けれども、戦争の歪みは今なお人々の生活に影を落としています。
うちなーぐち(沖縄語)には、「肝苦りさ(ちむぐりさ)」という言葉があります。やまとぐち(共通語)に訳すと「胸が痛い」「可哀想」。同情よりも深く、「共に痛みを感じる」「一緒に苦しみと向き合う」という意味合いが強いそうです。
平和の礎。沖縄戦で亡くなった人の名前が刻まれている。
「沖縄は軽視されている」という人がいます。こんなに素敵な南の楽園とそこに住む人々を蔑むはずなどないのに、と思っていました。でも、「沖縄のことは好きだけど、戦争の歴史や基地問題は自分には関係ない」。そんな風に思っている人は少なくないように感じます。無関心ほど冷酷なものはありません。
先の大戦のことを知り、基地問題を考える。楽しく美しい沖縄だけでなくて、地元の人々が味わってきた悲しみや苦しみを共有する。全国の日本人が「肝苦りさ」の姿勢を持つことが、みるく世(ゆ)、平和な世の実現には不可欠です。
参考記事:
朝日新聞「知る沖縄戦」
23日付朝日新聞夕刊(東京4版)1面「沖縄負担苦しみ73年」、関連記事13面
同日付日本経済新聞夕刊(東京4版)1面「沖縄73年目の「慰霊の日」」
同日付読売新聞夕刊(東京4版)1面「沖縄誓う平和」、関連記事12面