新卒者の就職戦線で「売り手市場」の傾向が。
少子高齢化と人口減少で、中小企業の人材確保が。
人手不足に事業拡大を阻まれて。
だからなんだというのでしょう。
6月の採用活動解禁を迎え、就職活動もそろそろ後半戦。「今の就活は売り手市場」という言葉は、スーツを卸してから当たり前のように耳にしていました。一方の私は出版業界を志望。5人から10人しかない募集枠に対して、200人から就活生が集結します。説明会が終わり、まったく同じ格好で同じ方向に歩き出す集団と同化した時の気持ちはまさしく「何者」。売り手市場を実感することもなく就活を終えることでしょう。
この世の中、仕事なんていくらでもあります。仕事を選ばなければ就職先は決まるでしょう。そんな中でもやはり、就活生に人気なのは安定の要である公務員、活躍を夢見てベンチャー企業、言わずもがなの大手企業です。募集定員の2倍も3倍も応募があれば、就活生にとっては売り手市場なんてほとんど関係がありません。
なぜそんなことになるのか。就活生って、自分のやりたいことがはっきりしている人間は意外と多いのです。やりたいことを、仕事として大成させる。そうなった時に真っ先に思いつく活躍の舞台は何をしているのか聞かなくてもわかる大企業や、自分の仕事がそのまま結果に結びつくベンチャー企業。いくら有効求人倍率が上がったところで、みんなが同じ会社を志望していたらそんなことは関係ありません。悪い言い方をすれば、お目当ての企業以外は会社とすら思われていないのです。
そんな中で、神戸市のみなと銀行は開催する合同説明会に大手製鉄所や重工業に出展を依頼。集まった学生先着100人ずつに、参加ブースの数に応じて最大1500円の商品券を配ったそう。大手製造企業を客寄せパンダに、中小企業への呼び水を狙ってのことです。しかし結果は、集まった270人の就活生で中小企業のブースが賑わうことはありませんでした。
こういった就活関連の記事を読むにつけ、御社の皆様方は就活生を何だと思っているのだろう、と、ちょっとカチンと来てしまいます。
まるで就活生側の安定志向、大手志向が悪いとばかりの言いようをされる。人手が足りないと嘆くその口で経験豊富で上昇志向の高い優秀な「人材」がほしいという。そこまでの「人材」がやってくる、自分の会社がそれほどいいものだと胸を張って言える企業が、いったいどれほどあるのでしょう。
その会社に人が集まらないのは、その会社の責任です。苦肉の策なのはわかりますけれど、商品券のような薄っぺらい対策なんて講じずに、その合同説明会で売り込まなければいけなかったのはそれぞれの会社の魅力だったのではないでしょうか。
就活苦学生として、いろいろな企業を見て回りました。あくまで個人の感想ですが、それなりの規模でそれなりに安定している企業では、口をそろえて「会社と新卒、どちらが偉いわけでもない。そちらもこちらも選ぶ側であり、マッチングするかはご縁です」と言っていたのが記憶に残っています。
最近では「人材」という言葉を「人財」とする企業も増えてきています。
そういう問題じゃない。「人材」でも「人財」でもなく、就活生は「人間」です。やりたいこと、働きたい場所、様々あります。「売り手市場」だなんて関係ありません。
「うちはこんなすごいことをしている、だからこういう人間が新しくほしい」と胸を張って言える、そういう企業が増えてほしいものです。
参考記事:
12日付 読売新聞朝刊(大阪13版) 6面(関西経済) 「変わる採用〈上〉」