怖ろしい。けれど美しい。
良いホラー映画とは総じて、この一言に尽きると思っています。
3月1日、ホラー映画の巨匠ギルレモ・デル・トロ監督作品『シェイプ・オブ・ウォーター』が日本で公開されるという話題に、日本中のホラー映画ファンが湧いています。
個人的にはとても楽しみにしていた話題なのですが、今日の読売新聞にまで掲載されていたので驚きました。みなさんはホラー映画、お好きでしょうか。怖いものは苦手、ホラーはグロテスクな表現が過剰だから見たくない、という意見も多いのが残念ですが、この作品はただ不気味なものがいきなり出てきて驚かせる、というようないわゆるパニックホラーとは一味違います。
物語の主人公は、声を発することができない女性。政府の機密実験施設で清掃員をしていた彼女は、半魚人の男“彼”と出会います。主人公は国を挙げての実験の犠牲にされようとしている彼を何とか助けようとする、というのが大まかなストーリーですが、メインとして描かれるのは言葉を持たない主人公と、人間の言葉を知らない異形のものとの愛の物語。映画作品における「言葉」という重要な要素をあえて使わないことにより、言葉に惑わされない純粋な愛の形を描くというデル・トロ監督の意図がありました。
記事でデル・トロ監督は、「他者への不寛容や恐怖に支配されている現代の人々の存在が制作の背景にある」と述べています。例えばインターネットで、破壊的で皮肉な発言を書き込むと一見、知的に映り、逆に希望や愛を肯定すると、単純に思われるなど、自分の本当の気持ちを表すことを恐れる現代人に対するメッセージを込めて作られたといっても過言ではない本作。キャラクターの動きや映像美、音楽、カメラの動き一つ一つが、デル・トロ監督のメッセージを表現するためにはどれも欠かせないものだとも記事では取り上げられています。
『シェイプ・オブ・ウォーター』はアメリカ映画ですが、人間の心の奥底を描き出すホラー作品は日本も得意とするところではないでしょうか。『仄暗い水底から』などは、表現やバックグラウンドのために幽霊がただの悪役にならない、人の心の闇や悲しみを見せつけ、見た人を考えさせる作品です。背筋がぞくぞくするのだけれど、本当に怖いのだけれど、怖いだけでは決してない。人間の暗い部分に焦点を当てることによって、返って人間の本質的な部分、言葉にできない部分を表現する、というのは、ホラー映画ならではの面白さでしょう。
実はわたしはもうこの作品を見てしまったのですが、あらすじさえ押さえていれば英語がほとんどわからない自分でも、デル・トロ監督の表現したかった部分を感じ取ることができました。何しろ主人公も対役の半魚人も、言葉は一切発しませんからね。
怖い映画で感動する。ホラーだけれど人間の心に触れる。ホラーの苦手な方にこそ、見てほしい新作です。
参考記事:
15日付 読売新聞朝刊(大阪13版) 19面(文化) 「人の心を芸術がつなぐ」