“やっぱり戻ります”の身勝手さ

世界の多くの人が予想していなかった、トランプ氏のアメリカ大統領就任から早1年。この間、国内の分断は深まりました。さらに、地球温暖化を食い止めるためのパリ協定からの脱退を決め、イスラエルの首都をエルサレムと認めるなど、世界中は彼の言動によって振り回されてきました。その中でも、とりわけ日本にとって重要なのはTPP(環太平洋経済連携協定)からの離脱です。トランプ大統領はかねてより「TPPはひどい」と繰り返し指摘し、より有利な2国間の自由貿易協定を目指すと主張してきました。

しかし、あれだけ批判してきたTPPについて、当人が急転直下、主張を変え始めたのです。それは26日のこと。スイスの保養地・ダボスで開かれている世界経済フォーラム(ダボス会議)で演説し、TPPについて「もしすべての国の利益になるなら、個別かグループでの交渉を検討する」と復帰の可能性をにおわせたのです。その前日25日にも、米CNBCテレビのインタビューで「以前よりずっといい協定が得られれば、私はTPPをやる」と発言していました。

日本は表向き歓迎の意向を示しています。アメリカ抜きのTPP11は世界のGDPの13%程度を占めますが、復帰すれば約38%に向上し、巨大な自由貿易圏が完成するからです。しかし、実際には警戒感も広がっています。再交渉するとなると、例えば日本は自動車や農業など、以前既に決着した分野でさらに譲歩するよう迫られる危険性があるためです。太平洋を取り囲む12か国が難しい交渉で練り上げた、いわば「ガラス細工」のような交渉結果を見直すには莫大な政治的エネルギーが必要で困難と見られます。

そもそものTPPはアメリカ主導でスタートしたことを忘れてはいけません。それなのに政権が変わったからといって破棄し、残りの国で発効させようとしたらまるで慌てるように復帰をにおわせる。しかも復帰の条件として今まで以上に自国に有利な内容を求める。ビジネスマン出身のトランプ氏らしいやり方ですが、国と国が一度約束したものを反故にし、「俺にもっと有利にしてくれるなら戻るよ」というのはあまりに身勝手に思えてしまうのは筆者だけでしょうか。

TPPの11カ国には、「あなたが約束したもの以上は呑めません」ときっぱり要求をはねつけるだけの覚悟が求められている気がします。もちろん日本もです。

参考記事:

27日付 朝日新聞14版1面 「米、TPP復帰含め検討」