人とつながる超高齢化社会

国立社会保障・人口問題研究所は「日本の世帯数の将来推計」を公表し、2040年には単身世帯が全世帯のほぼ4割に達すると予測しました。とくに目立つのは、65歳以上の高齢者です。15年の615万世帯から、143倍の896万世帯まで増えると推計しています。75歳以上の一人暮らしはさらに伸びが大きく、337万世帯から1・52倍の512万世帯に増える見通しです。同研究所の鈴木透・人口構造研究部長は「家族からの支援がない分、企業などのサービスや社会福祉で支えていく必要がある」と指摘します。

少子高齢化社会を迎える日本にとって、新たな福祉モデルとなりうるサービスを最近知りました。それが、住み慣れた地域で介護や医療、生活支援サービスを受けられるように高齢者を支援する「地域包括ケアシステム」です。その一つに、富山県を中心に実践されている「富山型デイサービス」があります。

高齢者と障がい者を分け隔てしないだけでなく、乳幼児の預かりや学童保育なども受け入れ、地域の赤ちゃんからお年寄りまでが、小規模の民家で共に過ごす新しい試みです。そこにはどのような空間が広がっているのだろうか。疑問と期待の両方を抱きながら、現場に足を運んでみました。

富山県高岡市の住宅地の一角にたたずむ一階建ての民家。ドアを開けると、仕切りのない開放的な空間が広がりました。若者が洗い物をする一方では、高齢者と障がい者が和室で並んでお昼寝をしています。食卓を囲んでおしゃべりしたり、ソファでくつろいだりする人も見られます。白衣や制服を身に着けているわけではないため、始めのうちは誰がスタッフで、誰が利用者なのか見当もつきませんでした。看護師を含めたスタッフ、利用者のいずれも年齢層は幅広く、0歳児から90歳を超えたおばあちゃんまで。80歳を超えたボランティアの方もいて驚きました。障がい者の雇用も進めており、スタッフの子どもが託児所として利用することもあるようです。

食卓の椅子に腰を掛けると、隣に座る80代のおばあちゃんが、「おやつ食べるが?」と饅頭を差し出してくれました。デイサービスときくと「施設」というイメージが強いですが、そこは家庭的で温かい雰囲気に満ちていました。従来の介護施設と大きく異なるのは、決められたスケジュールがないことです。お天気のいい日は散歩をしたり、利用者の要望に沿って買い物に出かけたり。食事の献立にも決まりはなく、冷蔵庫にある食材を使って自由に調理します。

近隣住民とのかかわりも深く、茶碗洗いや花壇のお世話などそれぞれができることを手伝ってくれるようです。スタッフの若い女性は、「利用するメンバーも、食事の献立も、季節のイベントの内容も毎回違うので、同じことを繰り返す生活ではなく、毎日新鮮な気持ちで楽しめる」と魅力を教えてくれました。地域と強いつながりを持ちながら、自由に、そして生き生きと過ごす人々の姿を垣間見ました。

この取り組みは、今までなかった人と人とのつながりを生み出します。昔の大所帯の暮らしのように、いろんな世代、背景を持つ人との関係を築くことで、助け合って生活することの大切さを実感できると思いました。認知症のおばあちゃんが赤ちゃんの世話をするという、普通では考えられないような例もあります。これまで世話を受けるだけの立場だった人が自分の役割を持つこともあるのです。それは、介護をする、されるという壁を越えた新しい福祉の挑戦です。

厚生労働省は現在、「我が事・丸ごと」の地域づくりとしてこのような共生ケアの取り組みを進めています。東京のような大都会でも、高齢者と子どもが一つ屋根の下で介護と保育を受ける多世代交流施設が広がりつつあります。複数のサービスや事業所を統合することで社会保障費を抑えたいという国の思惑もありますが、財政ありきではなく、地域のニーズと、人と人のかかわりを重視した政策を大切にしてほしいと思います。

 

参考記事:13日付  各紙「高齢世帯 40年に四割超」関連面