身体拘束は人権侵害なのか

 身体拘束は、医療や福祉の現場で広くとられている措置です。苦しさから医療器具を外そうとする入院患者や自殺を企てようとする認知症・統合失調症の患者などを守る目的があります。

 人権の観点からだけでなく、精神的苦痛をもたらすこと、筋力低下によって寝たきりになる可能性があることから、法令などによりその運用は限定的です。

 障害者施設や高齢者を対象にした施設では、以下の3要件を満たす「緊急やむを得ない場合」のみ認められています。

・本人や周囲の人が危険にさらされる「切迫性」

・他に手段がない「非代替性」

・必要とされる最も短い時間である「一時性」

 一方、精神科病院では、一定の知識や技術を持つ精神保護指定医に判断の権限が与えられています。この10年で身体拘束は2倍になり、15年6月末には1万人以上が拘束されていました。

朝日新聞には、医療・介護従事者の意見が紹介されていました。「しなくては安全が保てない」「患者のためにも職員のためにも必要だ」「可能なかぎりしないようにしている」という意見に加え、「認知症の祖母が夜間に家を飛び出してけがをした経験から、あの時拘束していればという後悔がある」という患者家族の意見もありました。

 一方で、身近な人の拘束を目の当たりにしてショックを受ける家族もいます。「見ていてとても辛かった」「自分たちにはできない看護をしていただいている以上、病院には何も言えなかった」という家族の方々、「おしめや排尿装置をつけられて、心理的なショックも大きかった」「あんな思いはしたくない」という自身の体験も綴られていました。

 他方では、身体拘束を受けた人の中にも「仕方のない拘束もある」「拘束しなければ自分をずっと見ている人が必要になり、両親にそうさせなくて良かった」という声もあります。

 介護や介助の必要な人が身近にいなければ、なかなか実感の湧きにくいテーマですが、もし自分が当事者になったら、もし家族が必要な時が来たら。あなたはどう考えますか。

 

参考:

19日付 朝日新聞朝刊(東京12版)9面「身体拘束」