「市民」って誰のこと?

大掛かりな公共工事には意見の対立がつきものです。
 
今日の新聞で取り上げられていたのは、「次世代型路面電車(ライトレールトランジット)」、略称LRT。省エネで、振動や騒音が少ない乗り心地が評価され、従来の路面電車が減りつつある日本でも注目されています。

リニア中央新幹線の整備をめぐる沿線住民と国、JR東海との対立に関心をもってきた筆者は、LRTの光り輝く未来より先に、整備自治体で同様の衝突が起きていないか気になりました。2022年3月の開業を目指し、今年度中の着工を予定する宇都宮市では、主に市民団体が反対の声を上げています。

反対派の主張のひとつは、「軌道新設により新たな交通渋滞を引き起こす可能性がある。財政負担を減らすためにはバス輸送を手厚くするべき」ということです。これに対し、市は道路の拡幅や高架化などの対応をするため、渋滞は発生しないと断言しています。通勤時の交通渋滞の緩和や沿線の活性化をねらう市は、事業費458億円のうち約半分を国が補助してくれることもあり、推進一本で事業を進めていくでしょう。

議会録や新聞記事を追っていて気になったのは、市民の大多数の意見は結局何なのか、ということです。市側は「徐々に市民の理解を得ている」と言い、反対側は「市民の半数が反対している」と言います。同じ「市民」ですが、双方が指しているのはいったい誰なのか、と思ってしまいます。

完成するまでは自分に関係ないと思っている人も多いのではないでしょうか。自治体は「十分に説明している」と思っても、もともとの知識量が少なければ理解度は下がりますし、事業そのものへのそれぞれの関心度の違い、つまり温度差もあります。住民投票の実施は議会で否決されたようですが、「置き去り」の住民をつくらず、その意思を確かめる場を草の根レベルからでも設けていく必要があると思います。

参考記事:
30日付 日本経済新聞(東京13版)31面(地域総合)「LRT街づくりけん引、台湾・高雄市リポート」