本との出会いには、いくつもの道筋があります。書店や図書館に足を運ぶのもいいですし、新聞をめくれば書評があります。私が印象に残る本との出会いは高校生のときに夢中になった「どくしょ甲子園」。朝日新聞社が主催していたコンクールです。読書会の普及を目的に国民読書年の2010年に第一回が開催され、その後、第五回大会(14年)まで続きました。少人数で集まり、一冊の本を真ん中に、読み、語り合った成果を「どくしょボード」と呼ばれる画用紙一枚にまとめます。
高校生だった私は、第一回大会、第二回大会のときに応募してみました。読書は一人でするものだったと思っていたため一冊の本を揃って読むことに新鮮さを感じたからです。締め切りが9月だったので夏休み中は学校や家に集まって論じ合ったものです。
第一回大会では、『幸福な食卓』(瀬尾まいこ著)を選びました。自分たちに身近な登場人物で感情移入がしやすかったからです。大会では奨励賞として選ばれたものの、選考委員だった池上彰さんからはこんな選評をいただきました。
「若い頃の読書は、理解が困難な本に挑戦してみることがあってもいいもの。その点、今回の応募作品には、身の丈に合った本を選んだものが多かった印象です。読書には『毒』もあります。そんな毒を知った読書会の応募がもっとあってもよかったなあ、とも感じました」
翌年の第二回大会では『二十歳の原点』(高野悦子著)に決めました。学園紛争のなか自分とはなんだろうと悩む女子大生の日記です。池上さんに言われたように、理解することが難しい作品を選ぶように工夫しました。生きることに絶望していく姿を読みながら、私たちまで暗くなりページをめくることができないこともありました。それでも一行ずつ読み進めました。結果はまた奨励賞だったものの、池上さんの言葉が理解できたので第一回大会よりも嬉しかったです。
そして6年ぶりで、そのときのメンバーと読書会を開きました。教室ではなく、静かな個室の居酒屋さんを予約しました。そしてもう一度、あのときと同じ本を手にとったのです。大学に通う意味、恋人の存在、親からの自立。セーラー服を着ていたときとは違う議論ができました。一人で読んでいるとどうしても思考が固まってしまいます。ですが複数で読めば自分とは違った視点や価値観を得ることができます。読書会の楽しさを再確認できました。
今度は、もう少し難しい本を読んでみます。小中学校の子どもたちは今週から学校がスタートするようですが、幸いなことに大学生の夏休みはまだまだ長いのです。今朝の日本経済新聞では池上彰さんが東京工業大学の教え子たちを中心にして、読書会を始めたことがコラムになっていました。まずは、その課題の本から始めよう。書籍との出会いは一生の宝物になるはずだから。
参考記事
28日付日本経済新聞(東京)15面(18歳プラス)「池上彰の大岡山通信 若者たちへ(146)卒業後こそ勉強の正念場 1冊の本 全員で読み、学ぶ」