昨年の私は、このような事態になることを一度でも考えたでしょうか。広大な森林、雄大に佇む山々、快適な温泉、ブランド牛やとうもろこしなどおいしい食べ物、かわいらしい固有種の馬、そして、よそ者の私にも親切にして下さった役場や地域の方々など、挙げたらきりがないほど素晴らしい要素が詰まった地域があります。どこだと思いますか。
長野県木曽町、御嶽山(おんたけさん)がある町です。今、この駄文をを読んで下さっている方の殆どがご存じだとは思いますが、今月29日に長野県と岐阜県にまたがる御嶽山が噴火しました。現在死者数は12名に達しています。山中には有毒ガスの影響でまだ救出されていない方が少なくとも24名いるとされており、自衛隊による救出が待たれるといった状況です。テレビに度々登場する木曽町役場では、職員の方にこの町について様々なことを教えていただいた場所です。
昨年の夏、筆者はジャーナリズムを学ぶプログラムに参加し、木曽町を訪れました。その中で取材の一環として御嶽山にも伺いました。ロープウェーを利用したため、山頂へは行かず、今回の噴火の被害を受けた方々が利用していた徒歩で山頂まで行く登山道とは異なりますが、麓でも気温が夏でも20℃に届かない、山頂はわずか10℃程度ということで、灼熱の東京で暮らす筆者には「天国」のように思えました。
そんな「天国」の山が噴火し、灰や噴石で周囲を「地獄」のような様相に変えてしまったことを思うと、ほんの一部ではありますが、あの土地の素晴らしさ、御嶽山の雄大さをわずかな時間でも経験した人間として残念に思う反面、御嶽山の恩恵を受けている以上、今回のような出来事が発生するリスクの存在を忘れてはならないのではないかとも感じています。列記とした火山であり、観光資源である温泉や登山道など、直接受けるものを始め、山地という地形や気候を利用した農業や畜産、固有種の木曽馬などの生産、飼育など間接的ものまで、この「火山」から受ける恩恵は数多く存在します。ですが「火山」である以上、今回のような危険性があることを観光客や地域の方々認識できていたのでしょうか。筆者はその点に疑問を感じています。物事の良い面を利用すること、活用すること決して間違いではないでしょう。しかしその良い面ばかりを見て、今回のような出来事を通して初めて危険性を認識するといった構図をいつまでも続けていては、犠牲になる方や地域をいたずらに増やすばかりではないしょうか。
2011年3月11日、私たちは環境負荷が少ないというメリットを持つ原子力発電があのような痛ましい事故を招くというデメリット、リスクの存在に気付かされました。ただ賛成反対という議論を飛び越え、どのようにリスクと向き合うのか、誰がリスクを負うのかという転換が必要ではないでしょうか。どのようなものについて回るリスク、皆さんのご意見お聞かせください。
参考記事:本日付讀賣新聞(東京14版)1,2,37面・日本経済新聞(同版)3,42,43面・朝日新聞(同版)1,2,3,13,38,39面