医者の不養生、ということわざがあります。 ひとの体を治す医者が自分の体を健康に保てていない、本末転倒な様子を示す譬えですが、現状を見る限り、このことわざが通じなくなることはなさそうです。 2015年7月、都内の総合病院に勤務していた30歳代の男性研修医が過労のため、自ら命を絶ちました。研修医ながら、自殺直前の半年間にとれた休日はわずか5日ほどだったといいます。 医師一人一人の過重労働によって支えられている日本の医療の限界が露呈した悲劇です。 過重労働からくる自殺、過労死などが社会問題と言われるようになって久しいですが、政府側からは効果の上がる対応がなされていないのが現実です。 働き方改革として、制限を越える労働時間には罰則が適用されるようになったものの、それでは根本的解決にはなりません。むしろ、医師のような特殊な業界では、活動する時間に制限がかかることで逆に身動きがとれなくなることもあり得ます。 規制のために休暇をとり、救えるはずの命が救えなくなる。そんなことが起こり得る場所に、働き方などという甘い言葉はもはや通用しません。 筆者の母も長く看護師を勤めています。昼夜問わず、大雪で交通機関が停止した日でも病院に向かったことさえあります。過労から来る体調不良で床にうずくまった母になにもできず、学校に行った日のことが忘れられません。 医師、そして医療にかかわる人々の労働環境の改善について、抜本的な解決は絶対数を増やすこと以外には恐らくあり得ません。しかし、簡単に増やせるものでもない。人の命に関わる仕事につける意思と能力を持ち合わせた人はそうはいません。自分がなれるかと言えば、まず無理でしょう。 現場にいけない、法令も作れない私たちができることはなにか。 少しでも自分の体に気を付けてみる、病院にお世話になる回数を減らす。自分でできる処置は自分で。病気や怪我のことですから、もちろん限界があります。それでもできる少しのことから。医者頼みにならない生活を目指したいものです。 参考記事: 24日付 読売新聞夕刊 13版 13面(経済) 「研修医 過労死相次ぐ」