感じとる 役者魂

 夏休みが始まってからお芝居ばかり観て過ごしています。印象的だった二つの作品があります。一つは三谷幸喜さん作・演出の舞台「子供の事情」。出演者全員に与えられた役は10歳の小学生です。二つ目は大竹しのぶさん主演のミュージカル「にんじん」。今年、還暦を迎えた大竹さんが14歳の少年役をこなしています。共通しているのは、大人が子どもを演じているということ。見た目をそっくりにするのではありません。仕草や言葉使いで子どもになりきっていました。

 「子供の事情」に出演した女優の天海祐希さんは朝日新聞のインタビューで語っています。「舞台に向き合うことは、恐怖に向き合うこと。自分を追い詰めて耐える」。いったい役者がどこまで役に入り込めたか。自らを追い詰めることができたのか。肌でそのエネルギーを感じ取ることができるので映像よりも舞台が好きです。

 高校の演劇部にとって最大の晴れ舞台は、全国高校総合文化祭で催される全国大会です。毎年夏に行われ、今年の宮城県で41回目になります。昨日、大会初日を迎えました。
 
 大会に出場した宮城県名取北高校の演劇部は、東日本大震災で妹や弟を亡くした高校生たちの苦悩を描いた作品を演じました。今朝の朝日新聞によると、部員たちは「私たちの演技が被災者の本当の姿を伝えているのか」と悩んだようです。津波で妻子を亡くした男性の話に耳を傾け、当時の様子や遺族の心情により近づこうと練習を重ねてきました。
 
 ステージ上では誰にでもなることができます。あえて等身大の役を選んだことは高校生にとってつらいことだったかもしれません。キャラクターに合った感情を表現するためには、震災に対する自分の気持ちを押し殺すことも必要だからです。どんな目で見られるのだろうか、怖い。そんな不安や葛藤が練習中にあったことでしょう。

 天海さんは「体力、気力を一回の舞台で全部出し切る。それを毎日続ける持続力を保つことで、短時間で自分を成長させることができる」とも語っていました。演劇に情熱を注ぐ高校生たちにとってはかけがいのない時間になったはずです。「帰宅部」だった私にはけっして体験できなかったため羨ましく思います。恐れずに、舞台に挑戦してください。
 
参考記事:
2日付 朝日新聞朝刊(東京13版)29面 社会面 「(みやぎ総文)演じる「津波で妹の手離した私」 「被災者の姿伝えているか」部員ら苦心」
7月6日 朝日新聞夕刊 3面「ずるくかわいい全員10歳 天海祐希、「子供の事情」で小学生役」