長きにわたる戦乱で傷ついた地に、喜びの声が広がっています。
イラクのアバディ首相は9日、「イスラム国(IS)」が最大拠点としてきたイラク第二の都市モスルの解放を宣言しました。朝日新聞の朝刊1面には、喜ぶ警察隊員や地元の子どもたちの写真が掲載されています。
しかしすべての戦いが終わったわけではありません。ISが「首都」と称するシリア北部のラッカなど支配地域が残っています。2面の記事では、ISが「国家」支配からテロ拡散路線へ戦術を転換していると指摘しています。日本を含め、世界各地でテロが増える可能性がますます高まっているのです。
先月29日、ヨルダンでシリア難民支援に携わっている駐在員、松永晴子さんの話を聴くイベントに参加しました。松永さんは認定NPO法人「国境なき子どもたち(KnK)」のメンバーで、ちょうど日本に帰国していました。
ヨルダンは世界でも最大規模の難民受け入れ国で、現在、約65万人のシリア難民が登録されています。松永さんたちは、シリアとヨルダンの国境に位置するザアタリ難民キャンプ内の学校で、音楽や演劇、作文などの授業を行っています。子どもたちがつくった絵本を見せてもらいました。ある少女の本には、穏やかな日々が突然奪われた悲しみが絵とともに綴られていました。彼女は友達を亡くし、避難先のキャンプでは知っている子どもが一人もいません。テレビで変わり果てた街の映像を見てショックを受ける少女を、父親が励ましてくれました。
同じくイベントで登壇したフォトジャーナリストの安田菜津紀さんは、内戦前に訪れた時に撮影したシリアの写真を見せてくれました。にぎわう市場、カシオン山から見た首都ダマスカスの夕景、そして人懐っこい笑顔を見せる子どもたち。
私がシリアという国を意識したのは、内戦が始まってからでした。荒廃した灰色の街の写真からは、そこに彩り豊かな風景や人々の笑顔があふれていた日々があったことは想像できませんでした。
破壊しつくされた街と失われた多くの命。支配地域の人々が心に負った傷の深さは計り知れません。中東に「危険な地域」というイメージを持っている人は多いと思います。私もそうでした。そもそも中東と一括りにしてしまいがちですが、本当はさまざまな国の姿があるはずです。そこで暮らす人々にとって、戦乱が当たり前のこと、日常の一部などではないのです。そう気づいた今、故郷を追われた人々の苦しみが以前よりもずっと痛切に胸に迫ってきます。
参考記事:10日付 朝日新聞朝刊(東京14版)1面「IS拠点モスル『解放』」
2面「テロ拡散続く恐れ」
7面「恐怖支配 深い傷」