今春、舞鶴高校浮島分校(定時制)に立山英さんが入学しました。 立山さんは20歳。私と同じ年齢です。中学校時代、自転車事故で頭を強打し、脳挫傷で意識不明の状態が続きました。一命を取り留めて意識は回復したものの、四肢が動かないなどの重い後遺症が残ってしまいました。リハビリを続けながら支援学校の中学部に転校、その後は療育センターや自立生活訓練センター、支援学校の高等部に進学し、今年の春やっと、支援学校ではない普通の高校へ入学を果たしました。 立山さんの夢は保育士になること。療育センターにいたころ、看護師に頼まれて3,4歳の子どもたちの世話をみたことがきっかけで、子どもの教育に携わりたいと思うようになったそうです。市職員である立山さんの父親は「みなさんに支えてもらってここまで来ることができました」と語り、息子の新たな挑戦を見守ります。 今も少し歩くのが不自由だという立山さん。保育士になるまでの長い道のりには、周囲の助けが必要なことでしょう。 さて、立山さんのような方が夢を追うなかで、厚生労働省は今秋から、「精神・発達障害者しごとサポーター」(仮称)の養成講座をスタートさせます。民間企業の有志にサポートに必要な知識などを身につけてもらい、精神・発達障害を持つ同僚を支援するという動きです。 発達障害と一口に言っても、対人関係を築くのが難しい自閉症やアスペルガー症候群、読み書きなどが困難な学習障害など多様なうえ境界線も曖昧です。障害者雇用実態調査によれば、約3分の1が「職場の雰囲気・対人関係」に悩んで仕事を辞めていた、という厳しい数字も出ています。 養成講座では精神・発達障害の種類や特性、一緒に働くうえでの留意事項などを学んでもらうそうです。精神保健福祉士や臨床心理士らが講師となり、年間2万人の受講を目指しています。 精神・発達障害者の存在は、今や社会に浸透しつつあります。人々が身近に捉えているか、というと別ですが…。先に紹介した立山さんも、後天的な身体障害であって精神・発達障害ではないものの、保育士になるという夢を持っています。そういった人々の支援に積極的に取り組むことは、これからの社会のためにも必要不可欠でしょう。 ただ個人的な意見として、必要なのはそれだけなのか、とも思います。 精神・発達障害を持ち、人間関係などに耐えがたい苦痛を感じながら無理に働く必要があるのでしょうか。自分のできることを最低限こなし、家族や身近な人々のいる暮らしやすい環境で幸せに暮らすという選択肢も、もう少し大切にされてもいいとも思ってしまいます。そのための金銭的、社会的支援が足りているとは、決していえません。 また、たとえ障害を持っていなかったとしても、社会で働いていくことはとても大変でしょう。今の20代から50代を見ても「余裕を持った仕事と暮らしができている」と胸を張れる社会人がどれだけいるのでしょうか。その中から受講者だけでも年間2万人を集うことがどれほど大変なことか。 支援する側もされる側も、気持ちのいい世の中を。 言うだけならば簡単で、目先の対策をまとめるのも意外と早くできる社会になりました。けれども現実問題を考えたとき、それをどのように実社会で活かせるのか。私たちこれからの社会に出る人間が考えなければいけないことは、そういうことなのかもしれません。 参考記事: 12日付 朝日新聞朝刊(京都13版)7面(総合5)「精神・発達障害 職場に「支援役」」 同上 27面(京都) 「寝たきり回復 進学」