米大統領選から考えるサイバー社会

 トランプ大統領は現地時間9日、連邦捜査局(FBI)のジェームズ・コーミー(James Comey)長官を解任しました。記者団が「なぜ、コーミー長官をやめさせたのか」ただすと、トランプ氏は「彼がいい仕事をしてなかったからだ」と簡潔に答えました。公式的見解としては「ヒラリー氏の私用メール問題」で訴追しなかったことを誤りだとする司法副長官の意見書を理由としています。

 FBI長官の任期は10年で、コーミー長官自身は2013年にオバマ前大統領によって任命されたため、任期半分にして突然の解雇通告を受けた形になりました。
 
 昨年の米大統領選中の「ヒラリー氏のメール問題」や「ロシアのサーバー攻撃問題」の捜査指揮を執ってきたコーミー氏ですが、今年3月の下院情報委員会の場で「ロシアの選挙介入の調査にはトランプ陣営とロシアのあらゆる繋がり、更にトランプ陣営とロシア政府の連携についても含まれる」と表明しました。

 また今月3日の上院司法委員会のFBI監査公聴会の場で「FBIが昨年の選挙前にメール問題を再調査したことが選挙結果に影響したと思うといささか吐き気がする」と述べていたこともあり、今回の解任劇は、現政権のコーミー氏に対する不信感であるとの見方や「ロシアとトランプ陣営の癒着が発覚するのを恐れてのことだ」との批判が溢れています。

 トランプ政権が独立した司法権に干渉しているなどとの指摘もありますが、ここではロシアの存在に注目したいと思います。

 今年1月に出た国家情報会議(NIC)の「選挙戦のロシアの影響力についての報告書」には、「ロシアの関与の事実」にある程度信頼が置けるとの結論が示されています。米国の情報機関はメールの流出を、「民間のハッカーを装ったロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)が民主党全国委員会のネットワークから大量のデータを盗み出した」ものが編集の上、Wikileaksに挙げられたものであるとみています。

 ここから読み解けるのは、ロシアの情報戦部隊が巧みに自身の存在自体を秘匿し、相手にダメージを与えているかということです。実際に選挙戦に大きな影響を与えていますし、トランプ支持者の中には「ロシアの介入はヒラリーの陰謀だ」と唱え続けている人も少なくないようです。

 更に同報告書は、ロシアメディア、主に「Russia Today」や「Sputnik」などがクレムリンのメッセージを国際的に広めている点に注目しています。とりわけこの二つは、一見ちゃんとしたニュースメディアに見えますが、都合の良いフェイクニュースを混在させることで巧みに世論を誘導しています。

 米大統領選の時のような他国からの大規模なサイバー攻撃に対し、日本政府にも十分な備えをしてもらいたいと思います。その一方で、こうしたフェイクニュースに惑わされないためには、私達自身が備えなければなりません。多くの情報がネット社会の中に混在する中で私たちがどの情報を信じるかということは、きわめて主観的な判断になります。目の前の情報が正しいか、一歩引いた冷静な判断が今一度必要でしょう。

 この記事だって、フェイクニュースかもしれないのだから。

参考文献;
11日付 日本経済新聞(14版)8面(国際1)「トランプ氏、FBI長官解任」
10日付 BBC JAPAN 「トランプ米大統領、コーミーFBI長官を解任」 
1月6日付 「Assessing Russian Activities and Intentions in Recent US Elections」