反グローバル化やポピュリズムの波を、何とか食い止めたといえるでしょう。7日に行われたフランス大統領選で、無所属のエマニュエル・マクロン氏が勝利しました。決選投票では有効投票の66・1%を獲得し、反EUを掲げた極右・国民戦線のマリーヌ・ルペン氏を引き離しました。政党に属さない中道の立場で、EUとの関係強化を唱え、39歳の若さで指導者に駆け上がりました。フランス国民が、雇用や治安に対する不安のはけ口を排外主義に見出さず、多様性のある未来を選んだことに安心しました。
しかし、今朝の紙面からは、決して楽観視はできないという思いが読み取れます。伝統政党に属さないゆえの政治基盤の弱さがあるからです。1年前に結成した政治運動「前進」が、6月の国民議会選挙で単独過半数を得ることは、容易ではありません。白票や無効票が極めて多く、有権者の三分の一がいずれにも賛同できないという意思を示した点も不安材料です。そして最も注目すべきは、排外主義を掲げたルペン氏の躍進です。右翼・国民戦線が得た票としては過去最大の1060万票を獲得し、存在感を印象付けました。確実に広がりつつある内向き志向を見過ごすことはできません。
怒りと不安から極右に投じた人の意見を尊重する
マクロン氏は勝利演説でこう語りました。英国のEU離脱「ブレグジット」やトランプ現象と同様に、エリートと大衆、都市と地方の分断は非常に大きくなっています。そんな中、都市エリートであるマクロン氏が、声なき声に耳を傾け、ポピュリズムの根本的な要因となる雇用問題や格差を解消できるかどうかが注目されます。弱者に目を向けるとともに、金融業での経験を生かした大胆な経済政策を打ち出してほしいものです。
マクロン氏が果たすべき役割は、自国主義の潮流が広がる世界の今後を占ううえでも大きなものとなっています。「もしもマクロン氏が経済運営に失敗して失業が増えたら、5年後は国民戦線が政権を取るだろう」。そんなフランス国民の声が、紙面に紹介されていました。いばらの道をたどるなかであっても、解体を免れたEUの変革を進め、国際協調主義の歩むべき道筋をしっかりと示してくれることを期待しています。
9日付 各紙「仏大統領選 マクロン氏」各紙関連面