「君ねぇ、日本は憲法9条があるから、平和なのだよ。もっと勉強しなさい」
以前、ある講演会の場で「非武装論って限界がありますよね」と質問した時に返ってきた言葉です。太平洋戦争後、日本で主流になった平和主義というものの典型的なものではないでしょうか。
今月3日に70歳となった日本国憲法。また安倍首相が自衛隊を9条に明記すると発言したこともあり、各紙で色々な憲法の特集が組まれています。その中で朝日新聞のオピニオンコーナーにあった14歳の中学生の投稿に目が留まりました。彼の意見を要約すると、
「自衛隊は独立を守るための国防や集団安全保障のために訓練をしているから、憲法9条の戦争に関わらないとの条項と戦力保持の否定という2点と矛盾していると思う。日本を平和にするには世界を平和にする必要がある。そのためにも中学生がもっと意見を表す場を増やすのが平和への一歩になるだろう」というものでした。
朝日新聞が15年6月に実施した憲法学者122人に対するアンケート調査で、「現在の自衛隊の存在は憲法違反にあたると考えますか」と質問しています。結果は半数以上の77人が違憲もしくはその可能性があると回答しています。つまり、この中学生が自衛隊の存在を疑問視するように、憲法学者も同様に自衛隊を違憲の存在だと主張するのです。
私は、9条をこのままで維持したいなら、やはり自衛隊を廃止し日米同盟を解消するべきだと思います。地理的な有利性はあっても、将来的に独立を維持できる保障はなくなるでしょう。それが嫌なら平和への願いは残したまま、憲法を適切な形に修正し続けるべきです。それこそ本当の意味での成文憲法なのではないのでしょうか。
4日の朝日新聞の社説には「自衛隊は国民の間で定着し、幅広い支持を得ている。政府解釈で一貫して認められてきた存在を条文に書き込むだけなら、改憲に政治的エネルギーを費やすことにどれほどの意味があるのか。(中略)9条を改める必要はない。戦後日本の平和主義を支えてきた9条を、変えることなく次の世代に伝える意義の方がはるかに大きい。」と書かれていました。憲法に反する法律だろうと「国民の支持」と「一貫した政府解釈」で合憲になると主張しているでしょうか。
それなら「PKO法」や「駆けつけ警護」、「特定秘密保護法」、今の「共謀罪」についても廃案にならなければ自動的に合憲になるということになります。もっと言ってしまえば、今後、人種差別的な法律ができた時や軍国主義に戻った時も合憲になるでしょう。それは、朝日新聞が望んでいることなのでしょうか。恐らく違うのではないでしょうか。
冒頭に挙げたセリフのように日本の平和主義というのは少し内向きな気がします。「外国で紛争があろうと、日本が平和であればそれでいい」。そう考えるなら、一つの意見として尊重はします。しかし多くの人はそうは思っていないのではないでしょうか。紛争を対話で解決できれば、良いに越したことありませんが、歴史を見てみるとそう上手くはいかないのが事実でしょう。対話に失敗した時にどうすべきなのかを考え直す必要があるでしょう。
70年の節目を迎えて平和主義とは、「一国だけのものか」それとも「世界中の人々を含むのか」、そして、もしも侵略された時に「ガンジーのような不服従を貫くのか」それとも「戦って独立を維持するのか」をもう一度、現実を直視しながら考え直すべきでしょう。
私は、「戦争をしないこと」と「平和主義」は別物だと考えています。
参考文献:
3日付 朝日新聞朝刊(14版)12面(オピニオン)「平和への意見発表 中学生」
4日付 朝日新聞朝刊(14版)8面(オピニオン)「社説 憲法70年 9条の理想を使いこなす」
5日付 朝日新聞朝刊(14版)7面(オピニオン)「平和守るため戦わねば 佐伯啓思氏」
15年 7月付け 朝日DIGITAL 安保法案学者アンケートに関するトピックス