障害者と伝統産業 両者の未来

「俺、小学校のころ障害者クラスにいたんよ」

 筆者にそう語ってくれた友人は、高機能自閉症を持っていることも教えてくれました。『高機能』と付いているだけあって、そう告白されるまで、彼がいわゆる『障害者』であるということはわかりませんでした。ただ少し、変わった子だなぁ、という印象がある優しい友人です。けれど、その『変わった子』という印象が、障害を持っている事実にやけにあっさり直結したことを覚えています。彼は、とてもギターの上手い子です。難しいクラシックの曲を、ギター一本で再現したり、人の表情をよく読んで、相手の性格や特性を的確に言い当てたりもします。
 
 自閉症や学習機能障害を持っている人々が、このように、何か特定の分野において爆発的な集中力を発揮し、輝かしい成果を上げる、という話は、もはや常識になっているのではないでしょうか。

 3月、京都の寺町京極商店街で変わった採用選考が行われました。明治20年創業和ろうそくの老舗『中村ローソク』の店舗で、知的障害や精神障害を抱えた男女3人がろうそくの絵付けに挑みました。高さ約12センチ、直径約2センチの小さなろうそくに、細筆で椿や桜を描く非常に細かい根気のいる作業です。ところが、1日に20本も仕上げる人もいて、「集中力が途切れないのはすごい」と職人をうならせました。

 京都の土地柄から、伝統工芸の息づかいを垣間見ることは少なくありません。けれども、需要の減少、後継者の不足が伝統産業における重大な課題となっていることに変わりはありません。そんな中で、学習機能障害や自閉症、精神障害などを抱え、一般の企業へ就職することが困難な人々を、伝統産業の世界へと迎え入れる動きが現れ始めています。先ほどのろうそく店での作業でもわかる通り、集中力や発想力、記憶力は得難いものがあります。ほかにも、ガラス加工会社の職場体験で、職人がガラスを切る音で仕上がりを確かめるという健常者ならば何年もかけて身に着ける技を、発達障害の一つである『感覚過敏』の子どもが事もなげにやってのけた、という例もあります。このような新しい形での障害者の就職支援にNPO法人や自治体の福祉会が動き出しているそうです。

 しかし、障害者支援の側面からだけでなく、産業的視点からは、商品が売れなければ意味がない、障害者を担い手として迎える取り組みと並行して、伝統産業そのものの活性化も進めなくては共倒れである、との厳しい見方もあります。障害を持っている方が作っているから買う、ということではないのです。障害を持っている方もその担い手の一員として確かにいることを知りながら、日本が守ってきた伝統というものに、もう一度向き合わなければなりません。

 

参考記事

4月4日付 読売新聞 3版 11面 「匠の技守る障害者の力」