買った商品が翌日には届く。ネット通販において、それは当たり前のことになってきました。それどころか、今では1時間程度で配達する企業まで登場しています。しかし、便利すぎるこのサービスが、社会を疲弊させているのかもしれません。
宅配便最大手、ヤマト運輸の労働組合は今春闘で、初めて宅配便の荷受け量の抑制を求めました。背景として、人手不足に加えてインターネット通販の市場拡大で従業員の労働環境が悪化していることが挙げられます。同社の長尾社長も「対策は打っていく」と応じるなど、本格的に環境改善に取り組んでいく方針です。
ヤマトに限らず、他の運送事業も状況は同じです。業界2位の佐川急便は、昨年末、宅配便の一部が最大2日ほど遅れました。3位の日本郵便は2015年にゆうパックの料金を値上げしました。いずれも人手不足の一方で荷物の取扱量が増えたことが原因です。
人手が足りない原因はどこにあるのでしょうか。厚生労働省によると、トラック運転手の年間労働時間は全産業平均より2割ほど長く、一方で、年間の所得額は大型トラックで1割、中小型トラックで2割も低くなっています。他産業に比べて、早いペースで進んでいる高齢化も人手不足に拍車をかけています。鉄道貨物協会は、2020年度には約10万人も不足すると予測しています。
先月、ボールペン1本をネットで購入しました。すぐに必要だというわけでもなかったのに、翌日配送を選択しました。買ったときは、早く届くなんて嬉しいと思いましたが、商品を受け取った後になって、こんなに早くなくても何も問題がないことに気が付きました。そこで初めて、安易に「早さ」を選んでしまったことを後悔しました。
ネットで買って、自宅に届くのが当たり前になった一方で、「届ける」人が必要なことを忘れているのではないでしょうか。過剰ともいえるサービスを提供するということは、どこかで誰かが無理をしなければ成り立ちません。消費者である我々が、当たり前をもう一度見直して、目先の便利さばかりを追いかけないようにしていく必要があります。
参考記事:
24日付 朝日新聞朝刊(東京14版) 2面(総合)「通販重荷 ヤマト疲弊」
23日付 日本経済新聞朝刊(東京14版) 1面(総合)「ヤマト、宅配総量抑制へ」