日本も、できることから始めよう。

  米トランプ大統領が出した、難民らの入国を制限する異例の大統領令。これに対して、米コーヒーチェーン大手のスターバックスのハワード・シュルツ最高経営責任者(CEO)は今後5年間で難民1万人を世界中の店舗で雇用するという計画を発表しました。この決断には賛否両論あるようですが、私はとても感銘を受けました。「企業は儲かれば良いというわけではない。社会貢献も必要だ」とあらためて気づかされたからです。

  日本でも、シリア難民の受け入れに対する姿勢が変わりつつあります。昨年の投稿でも、このテーマを扱いました。(「ようこそ」と、迎えることはできますか?)昨年5月の時点では、「2017年から5年間で最大150人の若者を受け入れる」とされてきましたが、シリア難民の留学生とその家族を含めると2倍に増える見通しです。留学生は配偶者と子どもを帯同でき、家族にも生活手当が支給されます。留学終了後は必ずしも帰国する義務はなく、事実上家族とともに定住することが可能になります。

  具体的な内容は次のようなものです。国際協力機構(JICA)の技術協力制度を活用し、レバノンとヨルダンに逃れたシリア人難民を対象にします。留学生としては年20人の受け入れにとどまりますが、家族も迎え入れることで規模は大きく膨らみます。シリアの一般家庭の家族構成を踏まえれば、5年間の受け入れ数は300人規模になるというのがJICAの試算です。今年の夏にも、第一陣の20人が家族と一緒にやってくる予定です。JICAの担当者は「あくまでも帰国して復興を担う人材の育成が目的だが、(内戦状態の)シリア情勢を考えると卒業後すぐに帰国しなさいとはならない」と説明します。

  日本は欧米各国と比較して、難民受け入れに消極的でした。2015年に難民認定されたのはわずか27人。アメリカは6万964人、カナダは4万8089人、ドイツは4万3706人のシリア人難民を受け入れており、その差は歴然です。混乱が長期化しているシリアでは約480万人が周辺国などに逃れているとみられ、欧米諸国では数年前から、国外に逃れた人を別の国が受け入れる「第三国定住」制度で多くのシリア難民を受け入れて来ました。

  国連難民高等弁務官事務局(UNHCR)のダーク・へベカー駐日代表は「日本はまだ、永住を前提としたシリア人の定住を受け入れる準備ができていない。一方で、何かしなければならないことをよく分かっている。留学生としての受け入れは『妥協案』なのだろう」と指摘します。

  たしかに、「妥協案」と言われても仕方がないかもしれません。「留学生として受け入れる」ということは、「知識や教養がある程度あり、語学のスキルも求める」ことに他ならないからです。シリア難民の中にそうした条件に当てはまる人がどれほど多くいるか、分かりません。ですが、これまで「27人」しか難民として認定されなかった事実を踏まえると、「妥協案」であったとしても前進として捉えるべきでしょう。

  スターバックスのハワード・シュルツ氏のようにはならなくても、日本もできることから始める。始めなければならないのです。

参考記事:

3日付 朝日新聞朝刊(大阪13版)3面(総合)「シリア難民 日本へ300人規模 留学生と家族 5年間で受け入れ 帰国義務づけず、定住に道」

 

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