もし、同僚の名前を検索して、昔の逮捕歴が出てきたら。逮捕履歴の検索結果削除について、最高裁判所が結論を示しました。とはいえ、問題の全体像は隠されたままです。市民の間で議論すべき問題ですが、その材料は不足しています。今日は、最高裁判断についての記事をもとに、削除依頼の問題について考えます。
インターネット上の過去の犯罪歴などの検索結果の削除について、最高裁が初めて基準を示しました。2011年に児童買春・児童ポルノ禁止法違反で逮捕された男性が、グーグルの検索で逮捕時の記事が表示されるのは不当だとして、裁判を起こしました。現在は妻子がいて、企業に勤めているということです。ところが最高裁判所は、「表現の自由」や「知る権利」を重視し、男性側の訴えを退けました。
各地の裁判所で提起されてきた「忘れられる権利」には言及せず、「検索結果を提供する必要性を、公表されない利益が上回るのが明らかな場合にだけ認められる」という基準を示しました。今後、公益性の強い事件報道などは、削除されることなく閲覧が可能になりそうです。
ところが、まだ疑問があります。そもそもグーグルはこれまで、どのくらいの割合で、どんな理由で記事の削除を決めてきたのでしょうか。日本で類似の問題にかかわる訴訟は5件でした。1月31日にこの抗告が棄却され、別の4件の訴訟も31日付で原告側の上告を退けています。訴訟に発展しなかった残りの削除依頼がどうなったのか、われわれが知る術はないのでしょうか。
記事によれば、削除要請の具体的な数や実際に削除した件数について、グーグルは公表していません。とはいえ記事の元になったと思われるサイト「google透明性リポート」を調べてみると、個別にはかなり詳細な統計を公開していることがわかります。政府からの削除リクエスト、著作権問題に関するコンテンツの削除リクエスト、政府からのデータ開示リクエスト。これらについては、依頼した組織、依頼の要約、そしてグーグル側のとった対応まで細かく記載されています。
透明性にこだわるのならば、ここに「利用者の人権にかかわるリクエスト」を追加するべきではないでしょうか。朝日新聞に、中央大学の宮下紘准教授(情報法)へのインタビューが載っています。
『忘れられる権利』に触れていないことも含め、将来に判断をゆだねた面もあるだろう。ネットの利用者全員が、今後も議論していくことが必要だ。
現状、議論の材料は十分でしょうか。グーグル側がどう処理してきたのかを明らかにしないことには、この判決より先に進むことはできません。
参考記事:
2月1日付 読売新聞夕刊 1面「グーグル検索 逮捕歴削除認めず」
2月2日付 朝日新聞朝刊 2面「検索結果 消せない過去か」