これでいいのか、「特色入試」

 大寒波が全国を襲う中、大学受験生にとって大きな関門である大学入試センター試験が14日から二日間行われます。筆者がアルバイトで指導している生徒たちも、皆それぞれの会場で今までの努力の成果を出そうと会場に向かったことでしょう。
 
 このセンター試験は、2020年に廃止され、「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」を実施することが予定されています。全国各地の大学が取り組んでいる「大学入試改革」のひとつといえるでしょう。
 
 さて今回は、筆者自身の受験体験の話をしたいと思います。筆者が最後にセンター試験を受けたのは二年前です。当時、筆者は長年憧れていた京都大学への進学を諦め、大阪大学経済学部に通っていました。京大を受ける、と決めた理由には、京大への執着心と、その入試方式に「論文」型があったことでした。論文入試は、センター試験は社会が50点のみ、個別学科試験は英語が150点、国語が100点、論文が計300点という、少し変わった入試配点で、受験勉強から離れていた筆者は、センター試験の得点がほとんど重視されていなかったこと、そして、最も演習から離れていた数学の学科試験がないことに安心し、受験する勇気が出たのです。
 
 「論文」の試験は二つに分かれており、一つは論文や思想書の長さのある文章を読み、内容を要約するなどのもので、もう一つはあるテーマに沿った統計データやグラフが列挙され、その数値から推移の傾向や相関性などを述べるなど、非常に思考力、分析力、論述力を要求する問いが出題されます。一般的な入試方式とはまた違った難しさがあるのです。
 
 このように、論文入試では、普通の試験では不合格かもしれないが、相応の思考力を備えていると判断できる者を、入学させることが可能です。一般的な試験問題では得点できなくても、データの読み取りあるいは文章の読解が得意、などといった生徒は論文入試で合格できます。筆者自身は文章の読み書きが好きだったため、なんとか合格することができました。
 
 さてこの論文入試ですが、実はもう存在しません。先述した「大学入試改革」のひとつとして、2016年からは「特色入試」という名前に変わってしまったのです。しかし、その変化は名前だけではありませんでした。選抜に、高校の成績等を示す調査書が考慮されるようになったのです。
 
 調査書の成績が加味される場合、特色入試に出願するのはどのような生徒でしょうか。きっと、高校で優等生として扱われた、高い内申点を持つ生徒ばかりになるはずです。高校では他にやりたいことがあってあまり勉強できなかった、あるいは、通学に何か問題を抱えて高校に通えなかった生徒は、たとえ賢い地頭を持っていたとしても出願を諦めることになります。高校を中退しているので内申点もなく、阪大に通い受験勉強から離れていた筆者が京大に入学できたのは論文入試のおかげです。その論文入試がこのような試験に形を変えてしまったことを、非常に残念に思います。
 
 京都大学がそのような「特色入試」を実施することで、他の大学もそれに追随する可能性があります。同時期に東京大学でも推薦入試が始まりましたが、こちらも高校の成績を必要とするものでした。
 
 高評価の調査書をもつ優等生は、ほとんどの場合一般入試でも合格できます。「特色」入試のあるべき姿は、高校時代の勉強を入試から切り離すことではないでしょうか。そうでなければ、「特色」入試は、単なる「優等生の近道」に成り下がるのではないですか。各大学の先生方には、もう一度「特色」選抜の意義を考えてほしいものです。

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(2015年度入試 京都大学経済学部論文【Ⅰ】)(河合塾http://kaisoku.kawai-juku.ac.jp/nyushi/honshi/15/k01.htmlより引用)
 
 
 
参考:14日付け 各紙朝刊 センター試験実施関連面
河合塾 2015年国公立大二次試験私立大入試解答速報(http://kaisoku.kawai-juku.ac.jp/nyushi/honshi/15/k01.html)