目には見えない変化を積み重ねて

 「定期的に会談が行われており、最近はペルーで会った。首相の尽力で、ロシアと日本との関係が前進していることを認める。(中略)有名な温泉を訪れる機会を与えていただき、ありがとう。」

 15日、来日したロシアのプーチン大統領が会談冒頭にこう述べました。首相とプーチン氏による首脳会談は、第1次安倍内閣時代を含めると16回目です。両国のトップが顔を突き合わせて話し合う。このことに大きな意義があるのだと思います。

 日ロ首脳会談が、安倍首相の地元・山口県長門市で行われ、北方領土問題や平和条約締結、共同経済活動について意見を交わしました。北方四島の元島民の故郷への自由訪問についても協議されました。北方領土での共同経済活動について、ロシア側は「活動はロシアの法律の下で行われる。もちろん島はロシアに属している」としました。一方で、日本側は、我が国の法的立場が害されないことが大前提となる」と着地点が見通せないのも現実です。

 今日は会談の内容や政策ではないところに注目していきます。会談が開かれたのは、長門市湯本温泉の旅館「大谷山荘」です。湯本温泉は、県内で最も古い温泉とされ、神経痛、筋肉痛、疲労回復に効果があるとされています。首相も会談の冒頭に「首脳会談の疲れが、温泉につかることによって完全に取れることはお約束する」と述べました。温泉旅館でのひとときは、プーチン氏への最高のおもてなしとなったことと思います。

 また、会談は閣僚を交えた後、通訳だけを入れた1対1で95分間行われました。普段、官僚からの伝聞や文章でのやりとりが多いはずです。互いの目を見て、自分の言葉で伝えられる機会は貴重で欠かせません。冒頭に挙げたように、プーチン氏は定期的な会談のおかげで関係が前進しているとしました。領土問題をはじめ、どちらも譲れぬ状況が続き、素人目に見れば何も動いていないようにも見えます。しかし、そのような中で少しでも前進させるためには、「会って話す」ことが一番だと思いました。

 しかし、会って話せなかった人もいます。それは元島民の方々です。彼らは生まれ育った島の返還を心待ちにしています。平均年齢は81歳になり、見届けられずに亡くなった方も大勢います。今回、首相は元島民から預かったロシア語で書かれた手紙をプーチン氏へ手渡しました。その場で読んでもらったといいます。気持ちが届いたことを願うばかりです。彼らがプーチン氏との面会を希望していたかどうか筆者にはわかりません。ただ、直接会い、故郷への想いを伝える機会があれば少し違ったのではないか、と思ってしまうのです。

 16日は東京へ移動し、首相官邸での協議のあと、共同記者会見で2日間の成果を発表します。共同文書には、漁業、医療、環境などの具体的な分野が盛り込まれる予定です。長い間停滞している問題をいきなり動かすことは難しいでしょう。期待するのは、会って話したことによる心情の変化です。目には見えない変化を積み重ねて、両国にとっていい着地点へと進めてほしいと思います。

参考記事:
16日付 「プーチン大統領来日 日ロ首脳会談」関連面