新鮮でおいしい果物や魚。人情味溢れる開放的な県民性。美しい海、伝統ある林業……。筆者の地元、和歌山県には様々な魅力があります。最先端のモノや技術が行き交い、多様な出会いがうまれる大都市とは、また異なる良さがあると思うのです。しかし上京して出身地の話をすると、「和歌山ってどこ?」、「イメージ浮かばないな」という声が聞こえてくることもしばしば。情報発信や町おこしは十分でないと感じます。進学先や職種の選択肢の狭さから若者の流出が進むふるさとに、将来への不安を感じてしまいます。
今朝の紙面では、安倍政権の目玉政策「地方創生」が正念場を迎えていると報じられています。自民党は2014年に「まち・ひと・しごと創生本部」を設置し、東京一極集中の是正を目標としてきました。けれどもこの政策が地方ではなく、政府主導の中央集権的手法で進められていると指摘されています。
政策の目玉である中央省庁の地方移転が実現したのは、わずか3か所のみ。「業務の質が下がる」といった反発の強さを示しています。また、「意欲ある地方創生事業を提案」した交付金事業も、中身は政府が示すモデルに沿ったものが多いようです。前・地方創生相の石破茂氏は、インタビューでこう述べています。
「地方創生は地方が能動的、主体的に行うことが必要。地域が提案する方式は維持すべきだ」
求められているのは、伝統ある商品の強みを生かせる環境づくりや、地域の課題やニーズを踏まえた独自のサービス展開ではないでしょうか。情報を発信できれば、観光客や移住者を集めるはず。新たな雇用も生み出せるでしょう。充実したネット環境でIT企業の進出が相次ぐ徳島県神山町や、子育ての手厚い支援を打ち出した島根県邑南町などの成功例に共通しているのは、特色を生かして自発的に取り組む姿勢です。ただ、こうした運動を広げるには、地域の住民を巻き込む力が必要不可欠です。ここで問われるのは、住民の意識を変える自治体や「人」のリーダーシップだと考えます。
現在、大学との産学連携や、地域企業との共同開発がさかんに進められています。また、首都圏の若者が休暇中に地方で働く「ふるさとワーキングホリデー」を導入し、交流を通じて魅力を客観的に見つめてもらったり、新たな人材の確保につなげたりする取り組みも広がっています。将来を見通して、持続可能な事業を引っ張るリーダーをどう発掘していくのか。伝統を守り継ぎながら、地域が一体となっていかにネットワークを広げていくのか。このような点にこそ、より注目していくべきです。
参考記事 10月2日付け 朝日新聞 朝刊 14版 総合4面 「地方創生 目玉政策なのに」 6月29日付け 朝日新聞 朝刊 東京版 オピニオン2面 「地方対策 自立を促す対策を」