現時点では「ら抜き」は文法的に間違っている。が、それが多数派となったときには、「ら抜き」を直すのではなく文法のほうを直すのが自然だ。文法というものがはじめにあって、それにあわせて人々が言葉を使ったわけではない。すでにある言葉を、じーっと観察して、そこから法則性のようなものを掴みだして整理したのが文法なのだから。
歌人の俵万智さんは、1999年に発行された自身のエッセーで述べています。17年前も使われていた「ら抜き言葉」。俵さんもおっしゃるとおり、2016年の今でも文法的には間違っています。しかし、将来的には「ら抜き言葉」も正しい用法になるかもしれません。そうなれば、新聞の紙面で見かける言葉にも変化が生まれるでしょう。
文化庁が21日に発表した「国語に関する世論調査」によると、「ら抜き言葉」と呼ばれる「見れた」「出れる」を使う人の割合が「見られた」「出られた」を上回ったことが分かりました。1995年度の調査開始以来、逆転するのは初めてです。可能の助動詞「られる」の「ら」が脱落した「ら抜き」言葉について、「今年は初日の出が見れた」を使うと答えた人は48.4%(10年度比で1.2ポイント増)で、「見られた」の44.6%を上回りました(同3ポイント減)。
文化庁国語課の担当者は「尊敬や受け身の意味も含む『られる』から『ら』を抜くことで、『可能』という意味だと分かりやすくなる。長い目で見れば、合理的な変化であるとも考えられる」と話します。
一方で、パソコンや携帯電話などの普及によって、言葉や言葉の使い方に影響があると答えた人は85.3%で、08年度調査に比べ、6ポイント近く増えました。その影響として、「漢字が書けなくなる」が57.8%、「言葉の意味やニュアンスが変わる」が45.1%、「新しい言葉や言葉遣いが増える」が42.1%でした。感情などを表した絵文字を使うことがある人は56.1%。女性が67.6%で、男性の43.7%を上回りました。また、「OK」を「おk」、「UP」を「うp」と表現する若者は10代で50%、20代で36.6%に上りました。
私は、「ら抜き言葉」は普段の生活でもなるべく使わないようにしています。「正しい日本語を使いたい」という思いがあるからです。しかし、調査結果と同様、「漢字が書けない」と思うこともありますし、感情を表現するのに便利な絵文字もよく使います。今回の調査結果を受けて、絵文字に頼らず「言葉のみでの表現力」も養いたいと考えました。
日本語は、例外はあるにしても、日本でしか使われない言語といっていいでしょう。コミュニケーションツールであると同時に、私たちの持つ「たった一つの文化」だと思います。生かすも殺すも、私たち次第。100年後、1000年後の日本人も「美しい日本語」を使っていることを願い、今後も正しく使い続けていきたいものです。
参考記事:
22日付 朝日新聞朝刊(大阪14版) 31面(社会)『ら抜き言葉 初の逆転「初日の出見れた48%「見られた」45%」
同日付 日本経済新聞(大阪13版) 34面(社会)『「ら」抜き言葉 多数派に 「見れる」「出れる」』
同日付 読売新聞朝刊(大阪14版)1面(総合)『「見れた」「出れる」初の多数派 「ら抜き言葉」文化庁調査』,31面(社会)『えもじ「使う」56% 国語世論調査』