つながる図書館へ

 子供の頃、読書好きの父と祖母と共に、毎週のように地元の市立図書館を訪れていました。棚に並ぶたくさんの本を前に、今週はどの本を借りようかな、とわくわくしながら選んでいたのを思い出します。一方で、幼いながらに筆者が感じていたのは、利用者の年齢層の高さです。高齢の方が圧倒的に多く、学生や2030代の若年層の姿はほとんど見かけられませんでした。 

  今朝の紙面には、アメリカにおける図書館の挑戦が紹介されています。提供するサービスは、決して本の貸し出しだけではありません。例えば、今、各地の図書館で幼児を対象とした読み聞かせプログラムが人気を博しているようです。パソコン、スマホ全盛期の時勢に逆流するかのようなアナログ企画ですが、紙の匂いや手触り、装丁の美しさといった本の良さを知る母親たちはノスタルジーを感じると同時に、本に触れることで豊かな情操を育んでほしいと願っています。一方で、高齢者や障がい者を対象としたIT関連のプログラムも多くの図書館で開設されている、と記事は伝えています。一例として挙げられているのが、視覚障がい者向けパソコン教室です。このように多岐にわたるサービスを専門家がボランティアで対応しています。  

 米国各地の公共図書館に共通した特徴は、コミュニティーの中に溶け込み、住民のニーズに対応できるよう、多様な企画に果敢に取り組む姿勢です。そこには、すべての人に開かれたオープンな場としての図書館があります。 

 日本の図書館も、年々進化を遂げているように感じます。インターネットにおける蔵書検索や大活字本の導入など、幅広い世代や生活様式に合わせた工夫がなされるようになりました。施設のバリアフリー化や視覚障がい者のための点字・録音図書などのサービスも進んでいます。また、読売新聞の横浜地域面には、8月に伊勢原市立図書館で開催された「読書マラソン」という企画が紹介されていました。30日間に30冊を借りて読むと「金メダル」を獲得できるシステムで、貸出数の減少や若い年代の図書館離れを受け、より多くの市民に本を楽しんでもらおうという狙いがあります。 

 今後は、本を通した交流の場づくりや閲覧室・自習室サービスの充実など、市民を巻き込んだ様々なイベントや設備が全国の図書館でさらに広がればと思います。地元の学校や大学と連携したり、ボランティアを積極的に活用したりすることで、地域コミュニティーの活性化にもつながるでしょう。例えば、日本でも読み聞かせなどのボランティアイベントが増えれば、子供の読書習慣を育むと同時に、子育て世代の交流の場にもなると思うのです。 

 なにより印象的だったのは、米国で図書館運動を展開したアンドリュー・カーネギーの自叙伝を読み返すときに改めて思った、という在米コラムニストの言葉です。

図書館は人類の過去の英知の結晶であるのみか、未来を切りひらくエンジンである

活字離れや地域のつながりの薄さが叫ばれる今、様々なアイディアをきっかけに、本を介して人と人がつながる、そんな素敵な空間を図書館が作りだしてほしいと思います。

 

参考記事 読売新聞 3日付 朝刊 13版 15面 「アメリカの風 未来をひらく 図書館の挑戦」

        3日付 朝刊 13版 31面 地域面横浜「『3030冊』読破 金メダル」