筆者は現在、山形県の西川町に滞在しており、地域おこし協力隊のインターンとして活動しています。約3週間の滞在中、地域や個人から依頼を受けて、町の地域おこし協力隊員とともに民家の草刈りや学童保育の支援といった活動に従事します。町民が抱える困りごとの支援にとどまらず、地元で収穫された農産物を使った料理を町民の方々からふるまってもらったり、町の歴史や自然環境について学んだりしながら、町の文化を体験し、地域の方々との交流を深める機会にもなっています。
「地域おこし協力隊」は、総務省が2009年度に創設した制度です。背景には日本各地で進む人口減少と高齢化があります。特に中山間地や過疎地域では、若年層の都市部への流出が止まらず、地域社会を支える人材不足が深刻化しています。こうした地域に外部の人材を呼び込み、新たな活力を取り入れようと始まったのがこの制度です。都市部から移住した協力隊員は、自治体の委嘱を受け、農林水産業の支援や観光振興、伝統産業の継承、新たな地域ビジネスの立ち上げなど、多様な分野で最大3年間活動します。
制度の特徴の一つは、活動内容が自治体ごとに柔軟に設定される点です。例えば、地域資源を活かした観光ツアーの企画や空き家の活用、地場産品の販路拡大など、地元が抱える課題や可能性に応じて各自治体が隊員を募集します。協力隊員は単に人手として働くだけではなく、自らのスキルや経験を生かしながら地域課題の解決に挑みます。
また、任期終了後もその地域に定住するケースが多いことから、地方への移住促進策としても機能しています。総務省によると、令和5年度時点で、全国で約7,200人の協力隊員が活動しており、その6割以上が任期後も地域に残り、起業や就職を通じて根を下ろしています。このことから、地域おこし協力隊は地域社会の将来を担う人材育成の側面も持ち合わせているといえます。
筆者が滞在している西川町も、この制度を積極的に活用している自治体の一つです。山形市から車で約40分の距離に位置し、霊峰・月山をはじめとする豊かな自然に囲まれています。冬には最大で5メートルを超える積雪を観測(※独自の計測器によるもの)することから、「隠れ積雪日本一の町」としても発信しています。一方で、中山間部に位置するこの町は人口減少が深刻で、昭和29(1954)年に15,000人以上いた人口も、今年8月1日現在では約4,400人まで減少しました。また高齢化率は約46%に達し、地域を支える若い世代の流出が大きな課題となっています。こうした背景から、西川町では10名以上の協力隊員を受け入れ、それぞれが得意分野や関心に応じた活動を展開しています。町としても、協力隊員が定住し、長期的に町おこしに貢献することを期待しています。
京都市出身の礒合勇斗(いそあい・はやと)さん(27)は、大学院修了後に約1年かけて全国各地を旅した経験を経て、昨年4月に西川町の協力隊に着任しました。主に協力隊インターンの受け入れを担当し、外部から訪れる人々が地域に入りやすい環境づくりを支えています。
伊東絵里子さん(40)は山形県酒田市出身で、高校卒業後に上京し、会社員として働いていました。観光ガイドという仕事に関心を持つようになり、その後夫とともに西川町に移住しました。協力隊3年目の現在は、自身が企画する体験型ツアーの実現に向けて町民へのヒアリングを進めており、地域資源を観光に結びつける取り組みに挑戦しています。
次回は、実際に都市部から西川町に移住し協力隊員として活動を始めたお二人が移住を決めた経緯や活動を通して感じたこと、制度に対する思いを紹介します。
参考記事:
8月11日付 朝日新聞朝刊(東京13版)2面(総合2)「(時時刻刻)移住先、競う地方 群馬が1位に、『転職なき移住』がかなう」
参考資料:
総務省 地域おこし協力隊~移住・地域活性化の仕事へのチャレンジを支援します!~
公益社団法人ふるさと回帰・移住交流推進機構 地域おこし協力隊とは
西川町 西川町地域おこし協力隊
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