映画『国宝』が今月18日、興行収入100億円を突破しました。邦画の実写作品が興収100億円を超えるのは、2003年の『踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』以来、22年ぶりの快挙です。
後に国の宝となる男は、任侠の一門に生まれた。
この世ならざる美しい顔をもつ喜久雄は、抗争によって父を亡くした後、上方歌舞伎の名門の当主・花井半二郎に引き取られ、歌舞伎の世界へ飛び込む。 そこで、半二郎の実の息子として、生まれながらに将来を約束された御曹司・俊介と出会う。 正反対の血筋を受け継ぎ、生い立ちも才能も異なる二人。 ライバルとして互いに高め合い、芸に青春をささげていくのだが、多くの出会いと別れが、運命の歯車を大きく狂わせてゆく…。(公式サイトより引用)
歌舞伎は約400年前、江戸時代に流行した踊り「かぶき踊り」に由来します。「かぶき」には奇抜で異様という意味があり、人気があまりにも高かったため弾圧を受けました。その後、女性や少年の出演が禁止され、すべてを成人男性が演じるようになりました。「梨園」とは歌舞伎役者の世界やその家系、修行の場を指す言葉です。
喜久雄は身寄りのない中、血筋が重視される梨園で芸だけを頼りに生きていきます。名門に生まれた者は期待と重圧を背負い、そうでない者は壁や偏見に阻まれます。だからこそ、本物の芸を極めるしか生き残る道はありません。
血筋に恵まれない喜久雄が持つ圧倒的な才能と情熱は、単なる技術や技量を超え、「狂気」にも似た執念として描かれています。正真正銘、全てを犠牲にして芸に身を捧げていると言えるでしょう。俳優陣の演技も圧巻です。映画館でしか味わえない無音の間、息をするのさえ憚られるほどの緊張感が漂い、まさに芸に生きる姿を目の当たりにしました。
原作は芥川賞作家・吉田修一さんの小説で、映画公開後には文庫上下巻で計100万部に達し、単行本などを含めた累計発行部数は140万部に上ります。読売新聞によると、歌舞伎俳優の市川團十郎さんは今月、取材に応えて「歌舞伎に注目が集まっている。客席には若いカップルも多く、日本の文化に共鳴しているのだと感じる」と語りました。10月の福岡と京都での公演では、映画に登場した人気舞踊「二人藤娘」が上演されます。また、映画の影響で兵庫や滋賀などロケ地を訪れる人も増えているとのことです。
近年では歌舞伎とエンタメが融合し、『ONE PIECE』や『刀剣乱舞』を原作とした新作歌舞伎や、初音ミクとの共演など新しい試みにも挑戦しています。本作をきっかけに歌舞伎について調べると、400年の歴史の中で、江戸時代の天保の改革や戦後GHQの弾圧などで一度衰退したことがあったとわかります。しかし、その都度、斬新な演目を生み出したり、長らく演じられていなかった作品を復活上演したりして、伝統を守りつつ変化させてきました。現代のエンタメが溢れる世の中でも、伝統芸能が新たな取り組みとともに受け継がれていくことを願わずにはいられません。
登場人物には、芸を引き換えに全てを捨てた者、身を引いた者、血に囚われず本当の芸を求めた者などが登場します。人生における取捨選択や、何に覚悟を持って向き合うかというテーマも非常に考えさせられます。歌舞伎の知識がなくても楽しめ、映像の美しさに圧倒されました。映画館の大スクリーンで、ぜひ観ていただきたい作品です。
参考記事:
読売新聞オンライン8月18日付「歌舞伎界に『国宝』効果、チケット販売急伸・映画に登場「二人藤娘」10月上演…興収100億円突破」
日本経済新聞電子版8月21日付「映画『国宝』100億円突破、ロケ地の大津市長『魅力発信に活用したい』
朝日新聞デジタル8月19日付「映画『国宝』100億円超え 興行収入 邦画実写4作品目
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