戦後80年 被爆者の想いに触れる 土田ヒロミ写真展 ヒロシマ・コレクション-1945年、夏。より

筆者は中之島香雪美術館で開催中の「土田ヒロミ写真展 ヒロシマ・コレクション-1945年、夏。」に足を運びました。香雪美術館は朝日新聞を創刊した村山龍平(りょうへい)氏が収集した日本や東アジアの美術品を所蔵していることで知られ、中之島香雪美術館は二つ目の展示施設として2018年に大阪・中之島に開館しました。所蔵品の展示のほか、時機に応じて多様な分野の展覧会を開催しています。

2025年7月27日 筆者撮影

今日から3回の記事は、展示と7月27日(日)に開催された土田ヒロミさんの講演会を取り上げた3部作となっています。

展示の概要について紹介します。この8月6日で広島に原爆が投下され14万人もの方々がなくなってから80年になります。広島平和記念資料館には、犠牲者の多数の遺品が遺族などから寄贈されており、大切に保管されています。写真家の土田ヒロミさんは40年以上にわたり400点以上の遺品を資料館の協力のもと撮影してきました。

展覧会では、そのなかから土田さんが厳選した約170点の作品が展示されています。土田さんの表現方法については「私的な解釈や感情移入した自己表現を避け、誰もが認知できる身近な衣服や日用品の記号性を重視した、即物的な記録に徹している」と紹介されています。

それぞれの写真には、犠牲者と遺品にまつわる物語の短い文章が添えられています。写真と文章の両方から、80年前にその品物を持っていた、あるいは身に着けていた人に何が起きたかを蘇らせることができる展示となっています。

ワンピースや時計、お弁当箱、頭髪などの写真を見て回りました。中でも印象に残っているのは、折免シゲコさん(折免滋君の母親)が寄贈した滋君の遺品を撮影した「弁当箱と水筒」という展示です。

「折免滋君(当時中学1年生)は、学徒動員として中島町(爆心地から600m)で建物疎開作業中に被爆。8月9日早朝、母シゲコさんが太田川の土手で、積み重ねて焼かれた滋君の遺体を発見。この水筒と弁当箱の入ったカバンを巻き付けていた腰の部分が焼け残っていたので本人と判明。『今日は大豆ご飯だから、昼飯が楽しみだ』と言って出かけたという。」(展覧会パンフレットより引用)

真っ黒に焼けたお弁当箱と水筒の写真とともに、そこに添えられた文章を読むと、滋君と母シゲコさんの姿を想像せずにはいられませんでした。お母さんがつくった大豆ご飯をお昼に食べようと楽しみにしていたのに、午前8時15分、原爆によって命を奪われ、食べることができなかった滋君。一瞬にして人々の日常、命を奪ってしまう戦争や原爆への怒りを感じました。

それと同時に、戦争や原爆は過去の出来事ではなく、当時も現代と変わらない人々の生活や想いがあったことを想像し、気がつくと涙があふれていました。他の写真を見ても、それぞれの遺品が伝える人生があります。

これまで小・中学校の社会科見学で広島平和記念資料館や大学の国際平和ミュージアムへ何度か行ったことがあります。そこでは遺品が資料として展示されていました。実物が語りかけるリアリティーがあることは事実です。しかし現実味があるからこそ、どこか目を背けたくなってしまい、次の展示へと歩みを進めることができなかったこともありました。

中之島香雪美術館の展示は写真と短い文章で構成されていたこともあり、冷静に受け止めることができたと感じています。原爆を過去の出来事としてしまうのではなく、遺品の写真と文字という表現方法によってより身近に原爆の犠牲となった人々やその家族の想いに触れることができたと実感しました。

この夏、日本は戦後80年、被爆80年を迎えます。存命の被爆者も年老い、戦争の記憶を継承していくことがこれからは難しくなるとも言われています。この写真展を通じて筆者は、広島と長崎に投下された原爆が奪ったものは何なのか、それは今の私たちにどうつながっているのかについて改めて考えました。

今回紹介した展示は9月7日(日)まで公開されています。8月1日(金)から8月31日(日)の1ヶ月間、小学生〜大学生・大学院生は学生証を提示すると入場は無料です。8月30日(土)午後3時半からは、展示室内で土田さん本人が作品を解説する予定です。ぜひこの機会に美術館へ足を運び、平和について考えてみませんか。

参考資料

朝日新聞デジタル 「被爆した『日常』撮り続ける 土田ヒロミさん特別展、6月28日から」https://digital.asahi.com/articles/AST6W31QNT6WOXIE04BM.html?iref=pc_ss_date_article

「土田ヒロミ写真展 ヒロシマ・コレクション-1945年、夏。」パンフレット

「中之島香雪美術館について」

中之島香雪美術館について