全国紙の鈍い反応が残念だ

5月15日、読売新聞は「皇統の安定 現実策を」と題した提言を掲載した。1面、社説、見開きの特別面を使った大々的な展開からも力の入れようがうかがえる。提言は4つの軸からなる。①皇統の存続を最優先に ②象徴天皇制の維持 ③女性宮家の創設 ④女性皇族の夫と子への皇族の身分の付与—である

このうち②では既存の制度が世論に支えられていることなどから維持を訴え、①では皇統の存続のための方策を提示している。③④では、女性皇族は本来結婚後皇族の身分を離れることとなるが、それを廃止し、一般人の夫や子にも皇族としての身分を与えて皇族の数を確保するとした。さらに、結婚後も皇室に留まれるよう女性宮家の創設を可能にし、将来的には女性、或いは女系の可能性も排除すべきではないなどの主張が並ぶ。

国会では皇位継承をめぐる与野党協議が続いており、今国会中に「立法府の総意」としてのとりまとめ案を示すことを目指すとされていた。読売は提言報道という形で自らの姿勢を示したことになる。

この提言にまず反応したのは自民党の長島昭久衆議院議員だ。SNSで「なんとも面妖な紙面でした」と発言。国民民主党の玉木雄一郎代表も、「このタイミングで出してきた背景が気になる」と反応した。

メディアの出方はどうか。まず反応したのは産経新聞だ。17日には1面コラムの産経抄では「国会と世論を惑わす今回の提言」「面妖な季節外れの怪談」と痛烈に当てこすった。18日には麗沢大教授の八木秀次氏の「読売は立法府の総意を壊すのか」というタイトルの寄稿を掲載し、19日には論説委員長の署名記事で、産経の見解として「極めて問題がある」と厳しく指摘した。

産経が批判したのは、提言における③④の部分だ。男系男児による継承が126代に及んで続いてきた正統性を最重視し、それ以外の道に踏み出すことは皇統の土台が崩れるとする。それによって国民間に分断が生まれて象徴性を失ってしまうという論理で、女性・女系などもってのほかだと一蹴した。一方で読売提言が慎重に検討すべきとした旧宮家の男系男児の皇族復帰を柱とする対案も示している。

しかし他の全国紙の反応は鈍い。毎日新聞は6月4日付朝刊の「皇族確保、意見集約見送り」の記事で読売提言を報じたが、自民保守派が反発したという記述のみ。同11日の社説「皇族確保策の見送り 自民の危機感が足りない」では、女系・女性の天皇を認めるかどうかの議論は避けては通れない、将来の選択肢を今から閉ざす必要はあるまいと、読売提言に近い論を展開しながらも、発行部数で国内最大の読売が掲げ、政界に波紋を投げかけた提言に触れることはなかった。

朝日新聞は5月28日付朝刊の記事「女性皇族の配偶者、焦点」の記事の最後に読売提言についての記述があり、踏み込んだと評価している。しかし、同日に掲載された社説「皇室制度のあり方 女性・女系 将来の道閉ざさずに」で触れることはなかった。女系や女性の可能性を排しない読売提言とは方向性が一致していると思われるが、踏み込んでいない。

朝日は過去、読売の提言に社説で応じたことがあった。1994年11月3日に読売が自衛のための軍隊の保持を明記することなどを盛り込んだ憲法改正試案を掲載した際には、同23日に朝日が「『とにかく改憲』を排する」と題した社説で憲法改正には慎重な姿勢を示し、提言に否定的な考えを示したこともある。

それなのに、今回は社説のなかで一言も触れなかったことはなぜか。ライバルであっても、ともに言論活動を通じて民主主義を支えてきた他紙の報道や主張を真正面から論じれば、読者はより多くの判断材料を得て、理解が深まるのではないか。それが読売提言に真正面から応じたのが産経だけとは。なんとも肩透かしを食らったような気分であった。

ちなみに額賀福志郎衆院議長は20日の記者会見で、今国会中に「立法府の総意」としてのとりまとめ案を示すことは断念すると表明した。秋に始まる臨時国会での意見集約をめざすとするが、与野党の溝は埋まらないままである。

参考資料

週刊新潮2025年5月29日号

読売新聞「女系天皇」提言の波紋

(コラム)日本ルネッサンス「朝日と見紛う読売皇室提言」-櫻井よしこ https://yoshiko-sakurai.jp/2025/05/29/10093

長島昭久X https://x.com/nagashima21/status/1922923660534480902?t=P6CC6hUdR4MHdVP0ZzXsCg&s=19

玉木雄一郎X https://x.com/tamakiyuichiro/status/1922767859052314920?t=P6CC6hUdR4MHdVP0ZzXsCg&s=19

参考紙面

1994年11月3日付読売新聞朝刊1.2.3.17-21面 読売憲法改正試案

同年11月23日付朝日新聞朝刊 社説 「とにかく改憲」を排する

2025年5月15日付読売新聞朝刊 1.3.14.15面 皇統の安定 現実策を

 

同17日付 産経新聞朝刊1面 産経抄

同18日付 同2面 読売は立法府の総意壊すのか 麗沢大教授 八木秀次氏寄稿

同19日付 同1面 皇統と読売提言 分断招く「女系継承」は禁じ手だ 論説委員長 榊原智

 

同28日付 朝日新聞朝刊3面 女性皇族の配偶者、焦点

同 社説 皇室制度のあり方 女性・女系 将来の道閉ざさずに

同6月21日付 朝日新聞朝刊3面 皇位継承、今国会も結論先送り 額賀氏、今秋に向け「あらゆる手段」

 

同6月4日付 毎日新聞朝刊総合4 皇族確保、意見集約見送り

同11日付 社説 皇族確保策の見送り 自民の危機感が足りない