昨日、5月19日は「世界IBDデー」でした。IBDは、腸を中心に消化管の炎症を繰り返す炎症性腸疾患のことを指します。世界中で啓発イベントが開かれ、IBDに対する社会の理解を深めたり、根治療法研究の必要性への認識を高めたりする日とも言われています。
これは1990年5月19日に、欧州クローン病・潰瘍性大腸炎患者連合会(EFCCA)によって制定されたものです。日本では2013年5月19日に「IBDを理解する日」として日本記念協会に登録されました。昨夜は大阪・万博記念公園にある太陽の塔などが紫色にライトアップされ、IBDデーを知らせました。
IBDにはクローン病と潰瘍性大腸炎があり下痢や腹痛に悩まされますが、周囲からはわかりにくく「見えない難病」とも言われています。潰瘍性大腸炎は安倍晋三元首相が患ったことでも知られている病気です。日本では推計29万人のIBD患者がいるとされます。10〜30代と若い世代の発症が多く、症状が心配で就職活動ができなかったり、職場の理解が得られなかったりするなど、就労で困難を感じる患者も少なくないようです。
患者を支援するため、IBDネットワークは昨春、就職活動や就労継続を支援する冊子「わたしのトリセツ」を発行しました。これはIBDネットワークのサイトからダウンロードできます。
就活や就労について悩みを抱えるIBD患者に向け、職場の選び方や面接時にIBDを開示するかどうか、就職後の生活について先輩たちの経験やアドバイスが書かれていました。また、テーマに沿って患者にとって参考になるサイトや相談窓口のQRコードが掲載されています。
この冊子はIBD患者だけでなく、多くの人にとっても重要なことが書かれていると感じます。中でも印象的だったのが「伝え方を考えよう」という特集です。IBDについて「いつ」「誰に」「どのように」伝えるのかについて、患者の気持ちに合わせて考えています。
そこでは他者に伝える際に参考となる穴埋め式の文章も示されています。例えば、どのように伝えるかという設問では「私は(潰瘍性大腸炎/クローン病/お腹の病気/腸に炎症が起きる病気/お腹が弱い/持病/その他)があります」というように、患者がどのくらい伝えたいのかによって言葉を選択し、それぞれに寄り添った文章を考えるというものです。
持病などプライバシーにかかわる情報では、伝えたくてもなかなか言い出せないという人もいるかと思います。そこでは聞き手がどのような反応をするのかによって、話しやすさが変わってくることもあるのではないでしょうか。社会全体の理解が進むことで多くの人が生きやすくなると感じます。世界IBDデーをきっかけに、これまで知らなかったことを学び、当事者の声に耳を傾けていきたいです。
参考記事
5月20日付 読売新聞朝刊27面 「難病へ理解願う光」
参考資料
朝日新聞デジタル 「10〜30代に多い炎症性腸疾患 患者の就労を応援する『トリセツ』」https://digital.asahi.com/articles/AST5H01CST5HUTFL00MM.html?iref=pc_ss_date_article
NPO法人IBDネットワーク 「2025/5/19 今日は”World IBD Day”『IBDを理解する日』」https://ibdnetwork.org/2025/05/4382/
読売新聞オンライン 「[サイエンス Human]患者の痛みを肌で感じることが背中を押してくれる…順天堂大学准教授 石川大さん 48」https://www.yomiuri.co.jp/science/20240517-OYT8T50066/
「わたしのトリセツ これから働く潰瘍性大腸炎とクローン病のあなたへのメッセージ」https://ibdnetwork.org/wp02/wp-content/uploads/Employment-booklet_A4.pdf