「食」が繋ぐ

アメリカで出会ったサウジアラビアの友人が、郷土料理である「カプサ」を食べさせてくれました。スパイスされた米の上に、ラムや牛肉、野菜がトッピングされ、大きな皿に盛りつけられています。じゅうたんに直接置かれた皿を囲むように、全員で円を描いて座るのです。サウジアラビアに行ったことがなくても、友人たちと話しながら、彼らが生まれ育った街を想像しました。そして、今まで触れることのなかったイスラム教についても知ることができました。

「カプサ」はもちろん「ハラール」。ハラールとは、イスラム教の戒律にのっとって豚肉やアルコールを使わずに調理した料理のことです。日本でハラールは広がりを見せていますが、まだまだなのが現状です。日本に留学に来ているムスリムの友人が「安心して食べられるのは、持ってきたカップ麺」と言っているのを聞いて、申し訳ない気持ちになりました。

そんな日本でも、彼らを支援する動きが熊本地震の最中にありました。熊本市内にあるホテルが、避難する外国人のために400食の「ハラール弁当」を提供。このホテルでは「イスラム圏からのお客さんがいつも食事で苦労しているのを知っていました」と言います。ニュースで外国人の避難者が集まっていることを知ると、熊本市国際交流会館に支援を申し出ました。何が起きているのかわからない状況の中で、この弁当は大きな救いの手であったはずです。混乱しているときに安心して食べられるものがあったことで、少しでも心を落ち着かせる助けになったと思います。

その後、お返しをするように、信徒たちが、全国の仲間から届いた支援物資でカレーなどを作り、地元の被災者たちにふるまったそうです。熊本には「日本人が作ったハラール弁当」と、「信徒が作ったカレー」がありました。この二つを通して、協力し交流していました。日本人と外国人を繋いだのは「食」です。

世界各地で混乱が起きており、食べることがままならない人も大勢います。それをわかったうえで言うならば、相手の「食」を考えることは、相手を想うことです。知らない土地で郷土料理を食べると、そこに住む人の気持ちに少し近づけたようになる。訪れたことのない国の料理でも、食べてみれば、そこにいる人々を想像し、理解できるような気がする。「食」は人を繋ぐ鍵になると思います。

参考記事:

31日付 朝日新聞朝刊(東京13版)「日曜に想う」3面(総合)