2025年1月の就任を前に、トリンプ次期米大統領の積極的な「外交」の動きは止まりません。今月5日には、強制送還する不法移民の受け入れを出身国以外の中米・カリブ諸国に打診したことが判明しました。カリブ海に浮かび、リゾート地として人気のあるバハマはすでに打診を拒否したことを明らかにしています。さらに、移民の受け入れ候補に挙がったパナマも「国際法に照らし、パナマ国籍以外の追放者を受け入れる義務はない」との声明を出しています。
中米パナマは、南アメリカ大陸の出口であるコロンビアと国境を接するため、大量の不法移民がダリエンギャップ経由で通過します。そのため、パナマと米国は今年7月に、不法移民を強制送還することで米国を目指す動きを阻止する取り組みに合意しました。8月には、不法移民をパナマから南米コロンビア、エクアドルに航空機で強制送還する試みを始めています。また、中国人移民の入り口となっていた南米エクアドルは7月に、中国人旅行者向けのビザ免除を一時停止しています。
ダリエンギャップを経由する不法越境ルート=日本経済新聞より引用
中南米を経由して米国へ渡ろうとする移民の動きが止むことはありません。政府がどれだけ対抗策を練ろうとも、移民とのいたちごっこに終わるでしょう。移動のルートは無数にあり、政府の取り締まり強化は移民の抑止力になるどころか、移民がより危険なルートを選択するのを助長すると考えます。このように、移民の流れを強く押さえ込もうとすることは、人道的観点からも大きく懸念されます。
世界最大の不法移民の交差点であるダリエンギャップは凶悪犯罪の温床であり、ルートを通過するための徴収金は犯罪組織の資金となります。また、通過点となる村では、移民を相手とした「割の良い」ビジネスを始めて、それまでの「稼げない」産業から手を引くこともあります。しかし、移民のルートは情勢などに応じて流動していくもの。流行りが廃れたからといって、その地域のエコシステムを回復させようとしても、移民ビジネスに毒された後では手遅れになってしまいます。
無関係の不法移民を受け入れるよう、受け入れ先の第三国を同意させるというトランプ氏の目論みは難航すると考えられます。しかし、トランプ氏は今後「不法移民大量送還」を実行するために、「外国人・治安諸法」と呼ばれる戦時法を発動する計画です。この法律のもと、第二次世界大戦期間中には日系、ドイツ系、イタリア系住民の強制収容を正当化するために用いられました。
今一度「なぜ人々が母国を離れ、命懸けで米国を目指すのか」を問い直す必要があります。深刻な地域格差や貧困、暴力に苦しむ人々が世界に存在し続ける限り、母国を去るという希求が消えることはないからです。強硬的な移民政策は、人々の移動を止めるどころか、凶悪な犯罪組織を肥大化させる恐れがあります。今後の動向を注視していきたいと思います。
参考記事:
6日付 トランプ氏、第三国に不法移民受け入れ打診 バハマ拒否:日本経済新聞
11月3日付 無法密林ダリエン、「VIP路」閉鎖 越境中国人に包囲網 離散〜ディアスポラ ルポ・決死の逃避行㊦:日本経済新聞