オーストラリア議会で、16歳未満のSNS利用を禁止する法案が賛成多数で可決されました。SNSの利用禁止を盛り込んだ法律は世界で初めてで、来年末の施行が予定されています。
規制の対象になるのは動画投稿アプリ「TikTok」、写真投稿アプリ「インスタグラム」、X(旧ツイッター)などです。施行されると、保護者の同意が得られている場合であっても、利用者が16歳未満であれば罰則の対象になります。オンラインゲーム、YouTube、グーグル・クラスルームといった健康や教育関連のサービスは引き続き利用できる見込みです。
法案では、SNSを運営するプラットフォーム事業者に16歳未満の子どもの利用を認めない合理的な措置を求め、違反した事業者には最大4950万豪ドル(約50億円)の罰金を科すことが定められました。罰則は利用者である子どもや保護者に対してのものではありません。
オーストラリアでは、SNSを通じて子どもが暴力的な動画などの有害コンテンツに接したり、いじめの温床になったりするとの懸念が広がっていました。利用禁止を法律化することで、子どもの心の健康を守る狙いがあります。
ただ、こうした法案には、実際の効果や情報アクセス権に関する疑問の声もあります。11月19日付の朝日新聞デジタルの記事では、規制をしても年齢認証の抜け穴はできるという意見が見られます。28日付の日経新聞の記事でも、仮想専用網(VPN)を使って位置情報を操作すれば子どもでもSNSに接続できると指摘されています。
民主主義の国では、表現の自由の観点から、情報にアクセスする権利の制限には抑制的です。依存やいじめといったSNS上で発生する問題から子どもを守るという目的ではありますが、本法案は言論空間のコントロールにもつながりかねません。オーストラリア政府には16歳を境にSNSの利用に制限をかけることに関して丁寧な説明が求められています。
現地の人はどう思っているのか、昨年留学していた際に知り合った、10代の子どもを持つ知人に聞きました。
それによると、現地の10代の子どもたちは法案を不満に思っているため、VPNを使って接続する方法について話し合っているそうです。一方、ほとんどの親は法案を支持し、対応する準備を進めています。近年、SNSを通じて深刻ないじめが多発しているのは事実です。これが要因となり年代を問わず自ら命を断つケースもありました。加えて、子どもたちはデジタルデバイスを使い過ぎているという心配も保護者の間ではよく聞く声だそうです。
オーストラリアの法案はSNSとの関わりについて世界全体で考えるきっかけになりました。施行されてから国内がどのように変化するのかも注目していきたいものです。SNSは当たり前の存在と思われていますが、国が主体となって制限する時代を迎えたとも言えます。今一度、SNSとの向き合い方、活用方法について考え直してみませんか。
参考資料:
朝日新聞デジタル「16歳未満のSNS利用、禁止法案が可決 オーストラリアで世界初」https://digital.asahi.com/articles/DA3S16095764.html?iref=pc_ss_date_article
朝日新聞デジタル「子どものSNS禁止法、効果は? 識者がみる『法よりも重要なこと』」https://digital.asahi.com/articles/ASSCL4149SCLUHBI012M.html?iref=pc_extlink
朝日新聞デジタル「豪、16歳未満のSNS利用禁止法案 『性的被害・いじめ防止に』 情報アクセス権侵害懸念も」https://digital.asahi.com/articles/DA3S16089773.html?iref=pc_ss_date_article
日本経済新聞電子版「オーストラリア、16歳未満のSNS利用禁止案可決 世界初」https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM289250Y4A121C2000000/