2014年9月から15年1月まで、トルコにいました。留学中、日本大使館から「東部地域へは行かないで下さい」という旨のメールが届きました。過激派組織「イスラム国」の攻撃、それに対するクルド準軍事組織の動きなどからか、危険地域の情報が度々入ってきました。しかしメールが来ても、比較的治安の良い平和な町に住んでいたので、「へぇ、そうなのか」としか受け取っていませんでした。日本人のフリージャーナリスト、湯川さん、後藤さんの人質事件が明るみになった頃、日本の友人から「大丈夫?」という連絡が入りました。その際も、「大丈夫、私のいるところは平和だよ」。そう返事をしました。
バングラデシュの首都ダッカで、20人の人質が死亡した襲撃テロ。犠牲になった方々、そして現地の人も、「まさか」と思ったのではないでしょうか。事件現場は「安全」だとされていた場所です。その事件の詳細が分かって来ました。同国の捜査当局は4日、治安部隊などによる突入作戦で拘束した実行犯1人に加え、別の1人を逮捕したことを明らかにしました。地元メディアによると、実行犯グループでは「高学歴の裕福な家庭の出身」が目立ち、半年前には消息を絶っていた者も含まれるそうです。今回の事件は、周到に準備が進められていた計画的な犯行だったとの見方が強まっています。いくら「安全な地域」と信じていても、凶行の前にはひとたまりもありませんでした。
首都ダッカに向かった日本人犠牲者の遺族の方は、4日早朝(日本時間4日午前)から遺体が安置された軍施設を訪れました。軍施設に同行した木原誠二外務副大臣は記者団に「大変な事態なので、家族の様子を申し上げるのは差し控える。悲しみ、喪失感、憤りは察して余りある」と話しました。
バングラデシュに進出している日系企業は対応を迫られています。最新のデータで、同国内には243社の日系企業があり、在留邦人は985人を数えます。各企業は従業員の安全を守るための対策を急いでいます。ダッカ近郊で橋の修理を手がける大林組と清水建設は、現地の社員に自宅待機を命じました。市内で裁縫用の糸を生産するグンゼは、電子メールで従業員の安否情報を集めるシステムを試験導入します。川崎重工業は4日、海外出張や駐在者に「標的となりそうな人の集まる場所に近づかない」ことを呼びかけました。
経済同友会の小林喜光代表幹事は4日の会見で「企業がグローバル化をやめるわけにはいかない。外国人が集まるところを避けるとか細かなマニュアルで対応するしかない」と述べています。
しかしいくら本社側が指示を飛ばしても、現地にいる従業員の心構えや意識が変わらなければ意味はありません。比較的治安の良い場所に住み慣れてしまったら、「まさかここで事件やテロが起きるわけがない」と思い込みがちです。いつ、どこで、何が起きるか分からない状況です。思い込みや甘い考えを改め、「危険と隣り合わせかもしれない」という意識を持つことが欠かせません。
事実、ダッカでのテロ事件以降、イラク、サウジアラビア、マレーシアと、イスラム過激派が関与しているとされる自爆テロや爆発が後を絶ちません。もちろん、悪いのは事件を起こす犯行グループです。しかし、企業側が警戒を強め、従業員の危機管理に対する意識を高めることなど、これ以上の犠牲者を出さない努力も求められています。
参考記事:
5日付 バングラデシュ・ダッカ襲撃事件 各紙関連面