改正子ども・子育て支援推進法に明記されたヤングケアラー 実態把握と援助のために必要なこととは

これまでの論考で「共同親権」の導入を盛り込んだ改正民法や、「日本版DBS」の創設を盛り込んだ「子ども性暴力防止法」について取り上げました。23日に閉会した第213通常国会で成立した法律のうち、子どもについて記した法律は他にもあります。本稿では、岸田政権の少子化対策を盛り込んだ「改正子ども・子育て支援推進法」と、そこで明文化されたヤングケアラーについて考えていきます。

 

◾️子ども・子育て支援等改正法とは

岸田政権が掲げた少子化対策を盛り込んだ「改正子ども・若者育成支援推進法」などが今月5日、可決・成立しました。改正法の柱は、児童手当の抜本的拡充です。所得制限の撤廃や高校生年代までの延長、第3子以降の支給額アップなどがあります。また、共働き・共育ての推進に関する具体策も明文化されています。

これらについては、新聞やテレビでもよく報じられています。筆者は改正法の中でヤングケアラーについての措置に注目しました。国や地方公共団体などが支援に努めるべき対象として、ヤングケアラーが明記されたのです。

 

◾️ヤングケアラーとは

こども家庭庁は「ヤングケアラー」のことを「本来大人が担うとされる家事や家族の世話などを日常的に行なっている子ども」と定義しています。以下のような児童や生徒が具体例として挙げられます。(参考:こども家庭庁HP)

・障害や病気のある家族に代わり、家事をしている

・家族に代わり、幼いきょうだいの世話をしている

・日本語が第一言語でない家族や障害のある家族のために通訳をしている

・家計を支えるために労働をして、障害や病気のある家族を助けている

障害や病気のある家族や幼いきょうだいの世話だけでなく、通訳や労働を日常的に行なっている子どももヤングケアラーに該当します。責任や負担の重さから、学業や友人関係など学校生活の全般に影響が及びがちです。

 

◾️現状

厚生労働省の調査によると、中学2年生の約17人に1人が「世話をしている家族がいる」と回答しています。また、世話をするためにヤングケアラーが平日1日に費やす時間として、中学2年生は平均4時間、全日制高校2年生は平均3.8時間という結果が出ています。

つまり1クラスで2人ほどがヤングケアラーであり、学校での時間を除くと、一日のなかの大きな部分をケアに費やしていることがわかります。生活に与える影響は多大で、勉強や部活、趣味のための時間が取れない、ケアについて話せる人がいなくて孤独を感じる、という悩みを抱えていることが多いのです。学業や就職に悪影響が及ぶ可能性もあります。そのため、かつてヤングケアラーで、すでに成人している人たちも苦しんでいるのが現状です。

 

生まれ育った家庭や環境から苦しんでいる人々を救うためには、行政による支援が欠かせません。しかし、ヤングケアラーと行政をつなげることは非常に難しいとされます。

その理由として第一に、ヤングケアラーである自らの状況が「異常」であると、本人が気づいていない可能性があります。物心ついたときから当たり前に家族のケアをしていれば、他の家庭も同様なはずだ、と思ってしまうかもしれません。

第二に、行政やNPO法人による支援策がヤングケアラーに伝わっていません。すでにサポートが行われているとしても、彼らが知らなければ援助を受けることはできません。

ヤングケアラーと行政の援助を繋げるためには、学校による実態調査やスクールカウンセラーなど相談窓口の拡大が必要です。同時に、ヤングケアラーの存在と問題点を私たちが知り、できる範囲で支援の手を差しのべることも欠かせません。

 

参考記事:

・6月23日付 読売新聞オンライン 「通常国会で成立した法律・条約<上>」https://www.yomiuri.co.jp/politics/20240622-OYT1T50195/

・6月11日付 読売新聞オンライン 「ヤングケアラー 半数が夢を断念」https://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/kyoiku/20240610-OYT8T50171/

・6月6日付 朝日新聞 朝刊 1面 「改正子ども・子育て法 成立」

・6月5日付 朝日新聞デジタル 「【そもそも解説】子育て支援策 児童手当、第3子以降3万円 他には」 https://www.asahi.com/articles/ASS6471R5S64UTFL011M.html

・6月5日付 日経電子版 「ヤングケアラー支援法が成立 国や自治体の努力を明確に」 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA05ATO0V00C24A6000000/

 

参考資料:

・こども家庭庁 「ヤングケアラーのこと」 https://kodomoshien.cfa.go.jp/young-carer/about/

・こども家庭庁 「ヤングケアラーについて」 https://www.cfa.go.jp/policies/young-carer

・こども家庭庁 「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律案の概要」https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/ba94b64b-731f-4f48-97ba-b54a76b0aeb6/a528abca/20240216_councils_shienkin-daijinkonwakai_03.pdf

編集部ブログ