日本国憲法が施行されて77年 誰が憲法を守るのか

「法が人を守るんじゃない、人が法を守るんです。」

 

今から10年以上前に放送されたテレビアニメ、『PSYCHO-PASS サイコパス』で、主人公が発した言葉のひとつです。作中でたびたび登場します。

 

作品の舞台は、人間のあらゆる心理状態を数値化し管理する巨大監視ネットワーク「シビュラシステム」が社会の治安を維持する近未来です。あらゆる心理傾向が全て記録・管理される中、犯罪に関する数値を測定する銃を持った刑事たちが、罪を犯す可能性を示す「犯罪係数」が規定値を超えた「潜在犯」を逮捕し、隔離するために追跡するところから物語が始まります。

 

刑事課に属する主人公は「シビュラシステム統治下では法律など不要」という世論に対し、潜在犯に法的な裁きを下すため法律の存続を訴え続けています。人が法を守るという主張はまさに主人公の意思を象徴する発言であり、いたく感動したことを鮮明に覚えています。

 

3日、「日本国憲法」が施行されてから77年が経ちました。これまで一度も改正には至っていません。憲法記念日に備え、新聞各社は世論調査を実施し、紙面には論説記事が並びました。

 

読売新聞社の世論調査によると、憲法を「改正する方がよい」との回答は63%と3年連続で6割台となり、憲法を「改正しない方がよい」は35%でした。戦争放棄を定めた9条1項「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」について、改正する必要は「ない」とした人は75%でした。しかし戦力の不保持などを定めた9条2項「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。 国の交戦権は、これを認めない」については、改正する必要が「ある」とした人が53%で過去最多となり、「ない」の43%を上回りました。

 

一方で朝日新聞の世論調査によると、「いまの憲法を変える必要があるか」という質問に対し、「変える必要がある」は53%、「変える必要はない」は39%でした。9条改正の是非については、「変えるほうがよい」が32%、「変えないほうがよい」が61%でした。

 

設問の違いが回答に影響していることは理解していますが、それにしても両者の違いに驚きました。

 

新聞には議題を設定する機能や、世論を形成する機能があります。憲法改正を促すためであっても、改正に反対するためであっても、現行の世論調査の結果を用いて、どちらかが多数派であることを読者に印象付けて、国民の間で賛否のある問題について主張することは果たして認められることなのでしょうか。

 

また新聞の中だけでもこれだけの情報が飛び交うなかで、読者に求められることは何でしょうか。

 

プロイセンの軍人クラウゼヴィッツは『戦争論』で、戦時のような非常事態において情報というものがいかに不確かで、それに依拠することがいかに危ういかを論じています。

 

「我々は確実な情報だけを信用すればよいとか、情報をみだりに信用してはならないなどという忠言は、確かにどの軍事学書にも載っているが、しかしこれは言葉のうえだけの、取るに足らない慰めであって、・・・つまり彼等はそれ以上のことを知らないからこういう智慧に頼らざるを得ないのである」

 

戦時中に限らず「情報を鵜呑みにしないように気をつけよう」という注意喚起は今もよく耳にしますが、確かに「心がけよう」というような綺麗ごとでは何も言っていないのと同じでしょう。ではどのような点に留意して紙面の記事を受け止めるべきなのでしょうか。

 

結局のところ、憲法のあり方について情報に踊らされずに考えるために必要不可欠なのは憲法の理念を「守る」強い意思です。憲法が人を守っているのではなく、人が憲法を守ることで、憲法は憲法たりえているのだと思います。

 

「尊くあるべきはずの法を、何よりも貶めることは何だか分かってる? それはね、守るに値しない法律を作り、運用することよ」

 

PSYCHO-PASS第1シリーズの最終回で主人公は言い切っています。「守るに値しない憲法改正」だけは決してあってはならないと、強く思います。

 

参考記事:

3日付 朝日新聞朝刊(東京14版)1面「SNS規制『必要』85%」 関連記事2,5,6,14,15,23

3日付 読売新聞朝刊(東京14版)1面「憲法改正『賛成』63%」 関連記事3

3日付 日経新聞朝刊(東京14版)4面「世界の憲法、項目多様に」