希望を紡ぐ 平和の祭典

 

我々は世界が直面している難民危機の重大さに突き動かされた。すべての難民に希望のメッセージを送りたい。

 

国際オリンピック委員会(IOC)会長、バッハ氏の言葉です。

 

今、世界は難民問題に揺れています。中東やアフリカなどの紛争地域から欧州への難民流入が後を絶たず、その受け入れについても混乱が続いています。そんな中、明るい光をともすニュースがありました。

 

8月に行われるリオネジャネイロ五輪で史上初めて、国や地域に属さない「難民選手団」が結成されます。五輪出場資格を満たしながらも政情不安などのために母国代表になれない選手を救済するためです。国際オリンピック委員会(IOC)は3日、出場する選手10人とコーチを含む役員12人を発表しました。開会式では五輪旗を掲げて入場行進をし、表彰式では国歌の代わりにオリンピック賛歌が使用される予定です。

 

10人の選手の出身国はシリアのほか、南スーダン、コンゴ民主共和国、エチオピアで、出場競技は陸上、柔道、水泳です。海上ですし詰め状態のボートが浸水し、泳ぎながら命からがら国境を越えた選手。故郷を失い、今も家族と連絡がつかない選手。過酷な経験を経て、様々なバックグラウンドの下で生きるアスリートたちは、現在IOCからの支援を受け、亡命先のドイツやケニアの難民キャンプなどで練習に励んでいます。

 

決して一筋縄の解決とはいかない様々な要素が絡んだ難しい問題ですが、素晴らしい取り組みだと思います。同じように過酷な経験をした仲間が、世界の舞台で戦う姿を見られることは祖国を追われた多くの人々に大きな希望を与えると思うからです。また、同じように世界の舞台で輝きたいと、その姿に触発されて競技を始める難民の子どもたちもいることでしょう。スポーツが、悲しみを忘れ苦境を乗り越える新たな光になればと思います。

 

五輪はこれまでも世界情勢と共に、様々に移り変わってきました。過去には政治が絡んだモスクワ五輪など暗い歴史もありますが、北京五輪では韓国と北朝鮮の同時行進が実現し、ロンドン五輪では全出場国の女性参加が叶いました。4月の聖火リレーにおいては、内戦で足を失ったシリア難民の水泳選手が参加し、難民キャンプを通過するという出来事もありました。今後もスポーツの祭典としてだけではなく、国家、民族を超えて人類が結ぶ平和の祭典として、五輪が発展していくことを願います。

 

現在、五輪を控えたリオネジャネイロにも約4100人の難民が身を寄せます。自分と同じ環境にある多くの難民に希望を与えるために。世界の人々に難民の存在を伝え、理解してもらうために。夢と希望を胸に、全難民の未来を背負って大舞台に挑む彼らの勇姿に注目です。また一つ、応援したいチームができました。

 

64日付 朝日新聞 朝刊 14版 21面「難民選手団に22人」

64日付 日本経済新聞 夕刊 3版 8面 「難民五輪選手団 リオで初の結成」

414日付 読売新聞 朝刊 13版 125面 「難民選手団 希望のリオ」