連載の初回(続く80万人割れ―忍び寄る少子高齢化社会)では、出生数が80万人を切り、さらに少子化が進む日本の現状を見渡しました。第2回(広がる非婚化・晩婚化)では、原因の一つである非婚化・晩婚化について考えました。連載の3回目(グローバルに進む少子化 ―カギはアフリカ?)では、日本から一旦離れ、世界に目を向けました。前回の(これまでの少子化対策)で日本政府が取り組んできた少子化対策を振り返りました。
民間の経済人や研究者ら有識者で構成する「人口戦略会議」は24日、『令和6年・地方自治体「持続可能性」分析レポート』を公表しました。すでに報じられている通り、2020年から50年までに全国の自治体の約4割に該当する744自治体に「消滅可能性」があるとして警鐘を鳴らしています。
同様のレポートは、10年前の14年に有識者会議の「日本創成会議」で公表されています。そこで896自治体を「消滅可能性」としていたのと比べ、若干の改善が見られました。ただし、今後も人口減少トレンドは続き、依然として深刻な事態です。
これまでに地方自治体はどのような政策で少子化に立ち向かってきたのでしょうか。 今回は、地方自治体による少子化対策について、いくつかの事例を挙げながら見ていきたいと思います。
広域自治体として大規模に少子化対策に取り組んでいるのが東京都です。その財政規模から幅広い少子化対策となっています。22年の都の合計特殊出生率は1.26と全国最低となっていますが、巨大都市だけに出生数は全国1位で約12%を占めています。小池百合子知事は、都の少子化対策について「社会全体に大きなうねりを起こしていかなければならない」と発言するなど、都から国を変えることを強く意識した少子化対策を打ち出しています。
結婚から出産そして、子育てまでそれぞれのライフステージに合わせた政策を掲げています。特に、都内の18歳以下の子どもを対象に所得制限なしで月額5千円を給付する「018サポート」は、国の児童手当拡充に先駆けて打ち出されました。23年1月4日にこの政策は公表されましたが、奇しくも異次元の少子化対策を表明した岸田文雄首相の念頭記者会見と重なり、都が少子化対策で先行していることを強く印象付けました。
基礎自治体クラスでもさまざまな取り組みが試みられています。ここでは、千葉県流山市の政策を紹介します。同市は、冒頭の「人口戦略会議」レポートで50年までの若年女性増加率が2.4%と全国4位の高さで、「自立持続可能性自治体」とされています。
都心部の共働き世代を呼び込む政策で、市内人口は10年間で約4万人増加しました。「母になるなら、流山市。」「父になるなら、流山市。」というキャッチフレーズも同市が子育て支援に力を入れる姿勢をアピールしています。市は、子育て支援の一環として駅前に送迎保育ステーションを設置しました。父母が通勤の途中で子供を保育園行きの送迎バスに預け、帰りも駅前で子供を迎えることで、家から遠い保育園へ送り迎えの手間が省けます。
このように全国的に少子化の取り組みは多くありますが、「人口戦略会議」の報告書は、「若年人口を近隣自治体で奪い合うかのような状況も見られる」と指摘しています。先進的な取り組みが自治体の人口増をもたらすことは確かですが、日本全体の人口増加を見込めるとまでは言えません。政府・自治体一丸となった対策が急がれます。
【連載】「静かなる有事」
出生数80万人割れが2年連続で続いた日本。少子高齢化への警鐘が乱打されてきたのになぜ解決しないのか。第5回の今回は、地方自治体の取り組みを見渡しました。今日付けの読売新聞朝刊は人口減少抑制へ向けた7項目からなる提言を行なっています。次回は、提言をもとに将来の少子化対策を考えます。
26日付読売新聞朝刊(東京14版)一面「人口減抑制 総力で 読売新聞社提言」
25日付 朝日新聞朝刊(東京14版)一面『自治体4割「消滅可能性」20〜39歳女性が50%以上減 2050年までに 人口戦略会議が分析』
25日付 読売新聞朝刊(東京14版)一面『自治体4割「消滅可能性」若年女性大幅減で 人口戦略会議推計』
25日付 日本経済新聞朝刊(東京14版)一面『744自治体「消滅可能性」全国の4割若年女性、30年で半減 人口戦略会議』
2023年1月28日 朝日新聞デジタル「少子化対策、国に先手 月5000円給付、小池知事「確実に追っかけてくる」」
2023年1月19日 日経新聞デジタル「40年人口、市区町村3割上振れ 千葉・流山は育児支援結実」